車椅子生活に車は必須
取材も投票も運転してくれる妻がいればこそ

我が家の車が新しくなった。大きな出費だ。けれど、欠かせない。
我が家の周りは坂道だらけで、道路の具合も車椅子が走るのにはお世辞にも適していない。
選挙の期日前投票のときは、区役所まで車椅子を押して連れて行ってもらったが押す人間が大変だ。選挙のように「車でのご来場はお控えください」というものは、さすがに家族に頑張ってもらうしかないが、あの坂道を考えると億劫になる。だから家を出るということは、ほとんどが車になる。
もし車がなかったら、ボクは週に2回のリハビリに出るときぐらいしか外に出ないかもしれない。取材だって今のように行けないだろう。
そう考えればボクは恵まれている。まだ運転を嫌がらない妻がいる。車だって持つことができる。
ついに決断、愛車との別れのとき!
今度、買うなら福祉車両
その必需品である車が1ヵ月前ぐらいに調子が悪くなった。実は今年の春、車検を通すときにかなり悩んだのだ。何度も直しているのに「速やかに車を安全な場所に止めてください」というおそろしい表示が出る。修理に出すと特に問題はない…という不具合が何回も続いた。「狼がきた」じゃないけど「またか」と思っていたら本当だった、なんてことにならないように何度も修理に出した。なので、車検は通さずに新しい車にしようか、という案も出た。けれど結局、修理をして車検を通した。それが一番安上がりで、我が家の経済事情からして賢明な結論だった。
それなのに間もなく、とある日の朝、エンジンのかけ始めにノッキングするようになった。修理に持っていくとかなり高額の修理代を言い渡された。いくら愛着のある車とはいえ、さすがの妻も辟易としていた。
「ねえ、パパどうする?もう車、だめかもしれない」。そう夜に聞かれた。
次の日、近くのトヨタ、日産、マツダなど数軒を一緒に見て回った。「今度、買うなら福祉車両」と決めていた。近所にそれらが展示されているところもなく、カタログをもらってきた。見積もりも出してもらった。しかし、納期に時間がかかるとのこと。困った。すぐにでも欲しいのに。
外車で福祉車両!ないなら作ってしまえ!
しかし、それには費用が…
外車で福祉車両って見かけないよね…。ニーズがないんだろうか?そう前から話していた。今のベンツだって、中古を買って福祉車両に改造するっていう壮大な夢を抱いたが、志半ばに終わっていたのだ。「ないなら作ってみよう」。そう思っていた。「こんなこともできますよ」ってやってみたかった。きっと少数派ではあるが、そんなことできないかな?と思っている人もいるはずだと。いつもこんなばかげたことを考えている。
しかし、費用はべらぼうに高い。また新たな病気になったボクはそんなことに費用をかける余裕はなかった。残念無念。未だ夢のままだ。
だから今回は、国産のすばらしい福祉車両を探そうと思っていた。海外旅行の折にレンタカーで福祉車両を見つけようと思っても見つけられない。もしくはかなり高額。借りられないほど高額だ。それならずっとタクシーでいいか、というレベル。そう考えてみると、日本は福祉車両においてかなり先進国なんだ、といまさらながら気がついた。
「ドイツなんてそういうの進んでいそうなのに」。そう話していたら、障害者が自分で運転する車はたしかにある。けれど、家族が乗せて走るっていうのはないかもねえ」とのこと。不確かで申し訳ないが、障害を持った人や高齢者を移送するシステムは発達しているが、それぞれの家庭が自分の車でってことはあまり考えてないってことらしい。文化の違いなんだろうか。
え!もう新車、買ってきたの?
なぜ妻は決断が速いのか
そんなことを考えていたら次の日の夜、「パパ車買ってきた」と言うではないか!びっくり。

ディーラーの人に、納期が早くならないかと相談すると「展示車のように登録済みの車でいいのがあればすぐお渡しできるんですが…」。そう教えられた妻はその日のうちに検索する。
家から電車で2時間以上かかる店に1台、思うような車があるから見にいってくる。そういって出て行った。帰ってきたら「買ってきた」と。そんな即決していいのだろうか?「えええ???」そんな感じでぶったまげた。
彼女の決め手は、「電話の応対が気持ちよかった。営業時間ぎりぎりなのに待っていてくれた。そしてなにより、今回の条件の、福祉車両で7人乗り、しかしワンボックスのように大きい車でないこと」だそうだ。最初の2つはあたりまえのことじゃないと思うが、車の条件がぴったりだったことは大きい。そんな大きなことを自分で決断することが、今まで妻になかったので驚いていると、妻が言った。
「パパ。パパが倒れて生死をさまよっているとき、何度もおそろしい決断をしてきたよ、そんなこと子どもたちに決めろっていうのも酷だから私が。管をつけますか?はずしますか?手術しますか?しませんか?間違ったらどうなるんだろうっていつも思ってた」。そう言った。 そうか、彼女はそんなつらい決断をしてきたのだ。車のことぐらいなんてことない。あたりまえだ。