体験入居可の施設特集
実際に生活することでわかることがある!?

「百聞は一見にしかず」。介護施設への入居では、この言葉がぴったり当てはまります。施設見学のみならず、できれば実際に何日か生活をしてみることで、施設の雰囲気や食事の内容、レクリエーション、設備、スタッフの対応など、短時間の見学ではわからないようなことも、実際に生活をしてみることで見えてきます。
多数の体験入居可の施設をご紹介しているので、気になる施設が見つかったらまずはコンタクトを取って、体験入居を申し込んでみてください。利用者が重視するポイントをあらかじめ書きだしておいて、体験入居時に確認しておきましょう。
体験入居にはたくさんのメリットあり!実際に生活することでわかることがある!?

老人ホームへの入居にはかなりの費用がかかります。入居一時金に数百万円、数千万円かかる老人ホームもありますし、引っ越しの費用や入居にかかる雑費、毎月かかる月額利用料などを考えると、決して安いものではありません。入居後に「見学時のイメージとは違っていた」「騙された気分だ」と後悔しても遅いのです。
老人ホームの入居にあたっては、施設から資料をもらったり見学したりと、事前に十分検討されると思います。けれど数時間程度の見学と資料だけでは、老人ホームの実態は見えません。実際に入居してみないと、その施設の真の姿は何もわからないのです。
もし具体的に入居を検討している老人ホームがあるのなら、見学はもちろんですが、体験入居をお願いしてみましょう。体験入居可能な老人ホームで、問い合わせた時期に空室があれば可能です。1泊2日から1週間、長いところでは1ヵ月間の体験入居ができますが、1週間程度の老人ホームが多いようです。
ひとつ注意していただきたいことは費用です。体験入居には介護保険が適用されません。
身体介護や生活介護のサービスをうけた場合、1泊2食付きで費用は5,000円から2万円程度必要になります。1週間入居する場合は、あらかじめどれだけの金額がかかるか聞いておきましょう。後日高額な費用を請求されてもめた…ということにならないよう、くれぐれもご注意ください。体験入居時に健康診断書が必要な場合もあるため、費用だけではなく、必要な書類や持ちこめる日用品などについてもチェックしておきましょう。
体験入居には多くのメリットがあります。施設見学は日中おこなうことが多く、夜間の老人ホームの雰囲気はなかなかつかめないものです。静かな環境かと思ったら、意外と外の音が施設に響く、他の入居者が夜中に騒ぐ、職員の見回りの回数が少ないなど、実際に住んでみてわかることも多いもの。
食事の内容も、短時間の見学時には確認できないこともありますが、体験入居ならその心配はありません。
体験入居時にチェックしたい6つのポイント
体験入居時にチェックしたいポイントをわかりやすく説明していきます。体験入居時に、ぜひ参考にしてください。
- 食事の量やメニュー
- 居室の広さや日当たり
- 立地や設備
- 入居者やスタッフの人柄、人間関係
- 日常生活におけるサービス
- レクリエーション
食事の量やメニュー
老人ホームでは「食事」が大きな楽しみになります。そこで、実際に施設で提供される食事を味わってみましょう。食事の量が多すぎる、少なすぎるときは調整してもらえるかを確認することはもちろん、メニューがワンパターンではないか、病気や嚥下状態によって食事の内容を「制限食」や「形状食」に変えてもらえるかもチェックしましょう。入居者からの要望に素早く応えられない老人ホームでは、入居後もなにかと不自由することになります。
居室の広さや日当たり
これも実際に住んでみないとわからない部分です。見学した部屋は南向きで日当たりが良かったのに、体験入居で住んでみた部屋は西向きで西日がとてもキツかった、というお話も聞きます。西日が強いと夏場はつらいもの。どのような対応をしてもらえるのか、事前に聞いておくと良いでしょう。
立地や設備
静かな環境で住みやすいと思っても、夜間は入居者や介護スタッフの声が室内に響く施設かもしれません。夜間も交通量が多く、車の音が気になることも。老人ホームは生活の場なので、施設の周囲の道路が狭くて散歩がしにくい、坂道が多くて歩きにくい、近所に憩いの場や公園がない、コンビニやスーパーが遠いなどの環境ではやはりマイナスです。施設の中でチェックしたい部分は、廊下の広さや手すりの有無、共有施設の利用状況など。施設全体が臭いと感じるなら、その施設は衛生管理が徹底できていないのかもしれません。
入居者やスタッフの人柄、人間関係
住みやすさに大きく影響する部分が、他の入居者・スタッフの人柄や人間関係です。体験入居では実際に施設職員の介護ケアを受けられるので、丁寧に対応してもらえるかどうかをチェックしましょう。また、他の入居者と実際に接してみて初めてわかることもあります。あいさつしても素っ気ない、派閥ができている、食堂で席の取りあいが起こる、仲の悪い入居者がいるなど、人間関係が良くない老人ホームでは、気持ち良く生活することができません。
日常生活におけるサービス
部屋の掃除や入浴、洗濯などの日常生活にかかわるものを指します。入浴の回数は週に2回というのが一般的ですが、施設によっては3回実施しているところもあります。入浴は食事と同じく、老人ホームでの楽しみのひとつ。入浴の回数を重視される方は体験入居でお風呂の入り心地、回数をしっかりチェックしましょう。施設によっては天然温泉や人工温泉に入れるケースも。入居後の癒し、楽しみとなる部分なのでよく確認したいですね。
レクリエーション
レクリエーションは、実際にレクに参加してみて、その内容や回数を確認しましょう。老人ホームのなかには「レクは毎日」と謳いながら、実際は週に2~3回しか活動していないことも。HPで謳われている内容が本当なのかどうか、事前に確認しておきましょう。
体験入居時に持参するもの
体験入居では、「タオルなどは持参してください」と言われることが一般的。体験入居の日数は、老人ホームや申込者によって違いますが、長期滞在ではないので新しく買い揃える必要はありません。使い慣れた物を持って行きましょう。
1泊や2泊程度なら、寝間着などは貸してもらえる場合も。体験入居をする前に、老人ホームに持参する物を確認しておくと安心です。
必ず持参するもの
- 衣類(衣服、寝間着、下着、靴下などを宿泊日数分)
- 洗面セット(タオル、洗顔用の石鹸、歯ブラシ、コップ、入れ歯ケースなど)
- 靴(室内履き、外履き)
必要に応じて持参するもの
- 薬(病院からの薬や個人的に飲んでいるビタミン剤など)
- 健康保険証(後期高齢者手帳なども)
- 介護保険証
- 介護用具(杖、車イス)
- 入浴用品(シャンプーやリンスなど)
- 介護・看護サマリー(医療手帳などがある人は持参)
- 消耗品(入れ歯洗い洗浄剤やおむつなどを宿泊日数分)
発作止めのニトログリセリンや、ぜんそく止めの薬などは介護スタッフや看護士に伝えておきましょう。ホームによってはスタッフが預かる場合もあります。
体験入居中に注意したいこと

「老人ホームに入居したいけど、どこがいいのかな?」と悩みますよね。『案ずるより産むが易し』という言葉通り、頭で悩むよりも、体験入居をしてみたほうが早いです。
体験入居でそのホームが気に入れば、入居先が決まることになります。体験入居中に「実際の費用はどれくらいか?」「夜中や緊急時の対応は?家族も呼び出されるのか?」「病院への通院の際は、本当に付き添いがあるのか?」といった生活に直結することを、聞いておくことをお忘れなく。
体験入居中は老人ホームのルールをしっかりと守り、マナーを大事にしましょう。実際に生活することで、ホームの雰囲気や周りの人の動き、スタッフさんの対応の良さなども見えてくるはずです。さらに、体験入居は「食事が自分の口にあっているか?」「ベッドやトイレなどは綺麗か?」といった細かな確認ができるチャンスでもあるので、しっかりとチェックしておきたいところです。
体験入居が決まった後、ご家族にもすることがあります。それが、面会です。「車で面会に行くつもりだか駐車場はあるのか?」「面会時間は長くて、気軽に行けそうか?」といった確認をしておくと安心です。
見学と体験入居の違い

見学では、スタッフの説明とともに施設の設備を見て回ります。食堂や居室などが見せてもらえますし、大体の費用の説明などもしてもらえるでしょう。
一方、体験入居では実際に他の入居者と一緒に生活します。スタッフも体験入居者を特別扱いせず、「同じ施設に暮らす仲間」といった感じで接することが多いのが特徴です。
見学はしやすいため、複数の施設を見て回れると思います。しかし、体験入居は見学と気軽さが違うため、老人ホームに入居した人の中には「いろいろ見学した中で、一番良さそうな施設だけ体験入居してみた」という人も少なくありません。『見学は比較のため、体験入居は最終確認のための機会』とも言えます。
また、体験入居は「家族と毎日会えない」といった新しい環境に慣れるための第一歩でもあります。ご自身、また家族の希望をすり合わせたり、施設側の意見やアドバイスなども聞けたりする貴重な時間です。
体験入居では、「ルールが守れるか?」というのも重要なチェックポイント。体験入居の間に問題行動を起こすと、入居し辛くなることもあります。他の入居者のプライベートを侵害しないことも大切です。
入居後のトラブルを招かないためにも体験入居が大事!
有料老人ホームの数が増えるにしたがって、老人ホームの入居・退去にまつわるトラブルも増えています。
国民生活センターに寄せられた「有料老人ホームに関する相談件数の年度別推移」によると、2005年は255件だったものが2010年には369件にまで増えています。超高齢社会を背景にこれからも有料老人ホームの数は右肩上がりで増加していくと予測されますので、相談件数もそれに比例し増えていく可能性大です。

では契約購入金額別にみたデータをご覧ください。トラブルが多いのは契約金額1,000万円以上5,000万円以下となっており、次に100万円以上500万円未満、そして500万円以上1,000万円未満と続きます。契約金額1,000万円以上5,000万円以下という金額は、決して安いものではありません。高額だからこそトラブルへと発展してしまうのでしょう。
では具体的な相談内容はどうなっているのでしょうか。「相談内容別分類ごとの相談件数」を見てみると、契約・解除に関するトラブルが突出しており1,663件となっています。具体的には退去時に入居一時金として支払った費用の返還に関すること(思ったよりも返還される金額が少なかったなど)、原状回復費用や月額利用料の清算に関するものが多くなっています。

このデータをみると一度老人ホームに入居するとかなりの費用がかかり、気軽に老人ホームを移動することが難しいことがわかります。「ああ、しまった」と思っても一度支払った入居一時金が全額戻ってくることはありませんので、金銭トラブルに発展することも。できるだけ後悔のない老人ホーム探しをしたいものです。
利用者の経済面や介護・医療ケアに適した老人ホームを選ぶためには、やはり体験入居が欠かせません。あらかじめ老人ホームの生活を体験しておくと、本人も納得して入居できます。国民生活センターに老人ホームの契約・解除に関する相談が多く寄せられていることから、入居前には施設スタッフからよく説明を聞き、入居一時金の金額や返還のきまり、月額利用料の精算や原状回復に必要な費用などをくわしく聞き、納得してから正式な契約をおこないましょう。
胃ろうへの対応が可能な施設特集
手厚い看護サービスが待っています

胃ろうとは、物を食べたり飲んだりすることができない、または難しいといった「摂食嚥下障がい」を持つ人が、栄養を補給するために胃に開ける穴のこと。数カ月おきにカテーテルを交換する必要がある胃ろうでは、医師や看護師による定期的なケアが必要不可欠です。また、例えば認知症患者では、自分で胃ろうを引き抜いてしまったり…といったトラブルもあるため、24時間看護サービスを導入している施設がほとんど。ここでご紹介するのは、そうした手厚いサービスが受けられる施設ばかりなので、胃ろうをしている方でも安心して入居をご検討ください。
胃ろう対応可の施設では手厚い介護・看護が
胃ろう(PEG:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)とは、病気や障害などで口から食事が摂れない方、または食事を気管につまらせやすく、誤嚥性肺炎を起こす可能性の高い方に対して行う「長期栄養管理法」です。
内視鏡を使い胃に小さな穴をあけて、そこに栄養を送るための胃ろうカテーテルを取りつけます。胃ろうカテーテルはお腹の皮膚と胃壁をつないでいるので、外部からカテーテルをとおして、直接胃のなかに栄養を送ることが可能となっています。この方法なら食事を飲みこむことができない、また誤嚥性肺炎を起こしやすい方でも安心して生活することが可能です。肺炎は高齢者の死因第3位。じつは高齢者にとって怖い病気です。できるだけリスクを避けてほしいという観点から、医師や介護スタッフが胃ろう造設をすすめる場合もあります。
従来は鼻からチューブをとおして胃に直接栄養を送っていましたが、患者が苦痛を感じることや介護者の負担が重いことが課題でした。今は、胃やお腹の皮膚に穴をあけ外から栄養を送ることで喉にチューブを入れる必要がなくなり、嚥下訓練や発声練習がしやすくなっています。胃ろうを造設しても食事は口から摂取可能です。胃ろうの必要がなくなった場合は、取り外すこともできます。胃は再生力の高い臓器なので「ろう孔」はすぐに回復するのです。
胃ろうの手術は大がかりなものを想像してしまいますが、大きな出血もなく5~10分程度で終わります。傷もほとんど目立ちませんしお風呂に入ることも問題ありません。できるだけ清潔にすることが望ましいため、PEG周辺部は石けんでよく洗い、きれいにしておくことが推奨されています。
こちらの表は「胃ろう造設者数」をまとめたものです。一般病院(一般病院・療養病棟・精神・結核・感染症病床)には16万9,543人の方が入院しています。さらに特別養護老人ホームや介護老人保健施設、訪問看護では25万6,555人もの方が胃ろう造設をされています。かなりの数の方が胃に直接栄養を流しこむ栄養摂取法で生活されています。つまり胃ろうはそれだけ安全な方法なのです。今後もさらなる高齢化により、胃ろう患者が増えることが予想されます。
<全国の胃ろう造設者数の推計結果>
胃ろう増設者数の推計 | 一般病院 | ||||
---|---|---|---|---|---|
合計 | 急性期 病院 |
慢性期 病院 |
ケアミックス 病院 |
||
一般病床 | 75445人 | 25866人 | - | 49579人 | |
療養病床 | 医療保険 | 60137人 | - | 28406人 | 31731人 |
介護保険 | 30954人 | - | 14643人 | 16311人 | |
精神・結核・感染症 | 3008人 | - | - | 3008人 | |
一般病院での合計 | 169543人 | 25866人 | 43049人 | 100629人 | |
特別養護老人ホーム | 36667人 | ||||
介護老人保健施設 | 21475人 | ||||
訪問看護 | 医療保険 | 9168人 | |||
介護保険 | 19702人 | ||||
合計 | 256555人 |
胃ろう造設した高齢者が老人ホームに入居する場合「胃ろうである」ことを理由に拒否されることは、以前にくらべて少なくなりました。胃ろうに対応できる老人ホームのスタッフが看護師だけだったため、胃ろう対応可能な老人ホームが少なかったのことが問題視されていました。今は研修を行えば介護職員でも対応可能となっています。
もし不安な場合は、老人ホームのパンフレットに医療・看護体制が明記されていますのでそちらを参考にしてください。もしわからないなら直接老人ホームに「胃ろうに対応できるかどうか」と確認すると安心です。老人ホームによっては、介護職員が研修を受けていない、看護師が常駐していないなどの理由で入居を断られる可能性があるため注意が必要です。
胃ろうに対応できる老人ホームを調査してみましたが、医療・看護体制がある程度ととのっているという共通点があります。看護師が日中、または24時間体制で勤務している、介護士が24時間体制で施設に常駐しているのがその特徴です。胃ろう対応可の介護施設なら、手厚い介護・看護サービスが期待できます。
老人ホームにおける胃ろう患者の受け入れ条件は?
2012年から、所定の研修を受けた介護職員が胃ろう患者に対応できるようになったため、以前よりも胃ろう患者受け入れ可能な老人ホームが増えました。しかし、受け入れ条件によっては入居ができない事例もあります。わかりやすくまとめていますので、ご参考にしてください。
1.認知症を発症した胃ろう患者は、受け入れがむずかしい……胃に直接栄養を送っている間は、できるだけベッドに横になり安静にしなければなりません。ところ認知症を発症するとソワソワと落ち着かなくなり、居室や共用部、また居室へと移動してまわる多動の症状がでるケースも。その場合、胃に確実に栄養が落としこまれているかどうかが確認できませんし、患者が認知症でアチコチ動きまわると栄養剤が逆流する可能性もあります。お腹につくられた胃ろうカテーテルは痛みやかゆみを感じることもあり、興味本位でいじるとカテーテルが抜ける場合もあります。患者の安全が確保できない場合は、胃ろうによる治療ができません。胃ろう治療が必要なうえに認知症を発症している場合、入居前に老人ホーム側との十分な話し合いが必要です。
2.たん吸引を行うかどうか……喉や口のなかに分泌物(痰など)を自力で外に吐きだすことができない高齢者は、看護師や研修をうけた介護スタッフにより機械を使って吸いとる必要があります。放置していると誤嚥性肺炎を引きおこす可能性も。嚥下状態(飲みこむ力)に問題のある高齢者は、吐きだす力も弱い傾向にあります。そのため胃ろう患者は、同時にたん吸引が必要なケースもあるとされており、これら異常行為が可能な看護師や介護スタッフが常駐する老人ホームでなければ対応できません。入居後に問題とならないように、入居前に施設側と話しをしておく必要があります。
3.介護スタッフが胃ろうの研修を受けているかどうか……胃ろうは医療行為のひとつなので、ずっと看護師のおこなう仕事とされてきました。ところが最近は、研修を受けた介護職員であれば胃ろう患者に対応できるようになり、以前にくらべて患者の受け入れが可能な老人ホームが増えています。ところが介護職員が研修を受けていない、看護師が日中、また24時間常駐していない、安全性を十分確保できない施設では入居を断られるケースもあるため、注意が必要です。
延命治療としての胃ろうをどう考える?施設入居前に考えてみよう
「胃ろう」は何らかの理由があり、口からの栄養摂取ができなくなった方に対して行われる医療行為です。口から栄養が摂れなくなる原因としては、口腔内のガンにより痛みで食事が摂れない、喉頭ガンや咽頭ガンにより食事がのどを通らない、脳卒中やALS、パーキンソン病などの神経性の難病により食事を食べることができない、また食べても吐き出してしまうなどがあります。このような嚥下障害により、胃ろうを造設することは純粋な「医療行為」です。腎臓の機能が低下した場合、人工透析を受けることになりますし、糖尿病の患者はインスリン注射で血糖値のコントロールをすることもあります。これら医療行為と胃ろうとは、まったく同じ医療処置のはずです。
ところが胃ろうに関してだけは「医療行為」や「医療処置」ではなく「延命治療」であるという認識をもつ方も多く、人によっては「胃ろうは不要」と口にする方もいます。なぜ胃ろうが延命治療と考えられてしまうのでしょうか。胃ろうを必要としている方のなかには、ある日突然脳梗塞や脳出血で倒れ、判断力や理解力が回復しないまま家族の意向によって胃ろうを造設する場合があります。認知症になり自分の意志で食事が摂れなくなった場合、胃に直接栄養を送る方法を採用するケースも。脳卒中で意識がなくなったり認知症で正しい判断がくだせない状況になったにも関わらず、胃ろうによって命をつないでいる状況が傍目には「延命治療をさせられている」ようにうつってしまうのです。
たとえ脳卒中で意識不明になってもその後回復し、嚥下リハビリで食事を摂取できるようになる方や、リハビリやレクリエーションで認知症の症状が緩和した場合、自分の意志で食事が摂れるようになった方もいます。胃ろうは、いつか回復するであろう嚥下機能回復までのつなぎでしかありません。もちろんなかには病状が回復しないまま、長期間栄養を外部から補給し続けることもあります。だからといって「無意味な延命処置、医療費のムダ遣い」とは言えません。治療として必要なものだと判断されたものに対して第三者が「ムダ」とは言えないはずです。
ただ胃ろうに関しては賛否両論ある現実を考え、脳卒中や認知症になる前に自ら「食事を経口摂取できなくなったときは、胃ろうを希望します」または「希望しません」と、ハッキリ意思を示しておくことが重要です。本人の気持ちがあらかじめ示されているなら、家族もその意向を優先させることができます。本人のしっかりした意思がベースにある以上「胃ろうはムダ」という議論が起きることもありません。
老人ホームに入居後、なんらかの事情で胃ろう造設が必要になることもあります。そのとき、本人がしっかりと状況を理解、判断、決断できればいいのですが、そうではない場合は家族が戸惑うことになります。あらかじめ「胃ろうは必要」「不要」という意思を、家族に伝えておきましょう。
胃ろうの処置は医療行為じゃなくなった!?老人ホームにおける介護士の役割とは?
胃ろうの処置は医療行為とされており、老人ホームでは看護師しかできないとされてきました。ところが看護師がいない時間帯に胃ろうの処置が必要なケースで、違法と知りつつ介護職員が胃ろうの処置を行う事例が起きていました。違法であっても必要に迫られて対処していたのですが、やはり問題があるということで介護士や看護師から「介護職員も胃ろうの処置ができるようにしてほしい」という声があがったのです。
そこで2012年から、一定の条件を満たした介護スタッフも胃ろうやたん吸引ができるようになりました。ある一定の条件を満たすその「条件」とは、定められた研修を定められた事業所で受講することです。受講時間は約50時間で、座学と実技がからなります。実技では実際に看護師から直接、胃ろうやたん吸引の技術や注意点を学びます。座学と実技でとくに問題がなければ、受講者(介護士)による胃ろうとたん吸引が可能となります。胃ろうとたん吸引はセットで研修を受けるように指導されています。
介護職員がこれら医療行為を行いやすい理由は、看護師よりも長い時間老人ホームに勤務していることがあげられます。看護師が24時間勤務する老人ホームは少なく、これが「胃ろう患者が介護施設に入所できない大きな理由」となっていました。ところが介護職員が一部の医療行為を行うことにより、入所者にとって大きなメリットがうまれます。痰がのどや口腔内にいつまでも残っていると誤嚥性肺炎を起こす可能性が高くなりますが、常勤介護士がすぐにたん吸引で処理できれば誤嚥性肺炎のリスクも低減され、入所者にとっても安心です。
老人ホームを選ぶときには介護士がきちんと研修を受けているかどうか、そして24時間胃ろうやたん吸引に対応できるかどうかを確認しておくとよいでしょう。