筋萎縮性側索硬化症(ALS)の対応が可能な施設特集
専門的で高度な医療技術が整っています

原因不明の指定難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、身体機能の低下によって胃ろうや中心静脈栄養(IVH)が必要になったり、気管切開が必要になるケースもあります。非常に専門的で、なおかつ高度な医療・看護の技術を要するため、受け入れを行なっている介護施設も限られてきます。有料老人ホームへの入居を考える際には、24時間看護が徹底していたり、医療施設に併設しているなど、医療と密接に連携しているところを選ぶと良いでしょう。
ALS患者の受け入れ可能な老人ホームには、専門的で高度な医療技術が
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)という病名、効き慣れない病名だと感じる方も多いでしょう。肺炎やインフルエンザ、胃炎、糖尿病など私たちの身近にある病気のイメージではありません。この病気は50~70代の方に多くみられ、とくに65~69歳の方が多く発症しています。男性と女性を比べると、男性の方が1.5倍患者数が多いという統計もあります。職業により発症の偏りもみつかっていません。主婦だから発症しにくい、肉体労働者だから発症しやすい、という傾向はありません。誰でもこの病気にかかる可能性があります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者数は1975年には214名でした。それから年々患者数は増えつづけ、2014年には9,950名と1万人近くの患者が治療を受けています。日本の国民病と呼ばれる糖尿病の患者数が316万人以上いることを考えるとメジャーな病気とは言えませんが、誰でも発症する可能性があるため注意が必要です。この病気は1974年に特定疾患として認定された指定難病で、現在の医学では完治させることは困難です。この病気の原因については「グルタミン酸過剰説」「環境説」「遺伝性説」などいくつかの仮説はありますが、いずれも仮説の域を出ていません。原因はいまだに不明です。また根本的な治療法も見つかっていないため、進行を遅らせる治療しか選択できません。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の初期の症状としては「箸が持ちにくい」「重いものが持てない」「筋肉が痛い、つっぱる」「舌の動きが悪くなり発音しにくい」「食事が飲みこみのくい」など。このとき自身がALSを発症していることを自覚できないことも多く、整形外科や一般内科を受診する方も少なくありません。そのため病気の診断・治療が遅れることになります。ALSの診断や治療ができる診療科目は「神経内科」です。
その後症状が悪化すると、全身の筋肉がおとろえ、自力で立ちあがり運動することができなくなり寝たきりの状態へ。さらに呼吸をおこなう筋肉も低下するため、夜眠っても十分な酸素が体内に供給されず「朝起きると頭痛がする」「スッキリしない」などの症状があらわれます。呼吸筋の力が低下することで呼吸困難になり、最終的には人工呼吸器を装着することになります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が老人ホームへの入居を希望する場合、高度な医療技術がそなわった介護施設を選定しなければなりません。医師や看護師が24時間常駐し患者の容体をつねに観察し、服薬管理はもちろん患者の状況によっては胃ろう、たん吸引、人工呼吸器の管理は不可欠。胃ろうやたん吸引は研修をうけた介護職員でも対応できますが、人工呼吸器は専門的な医療ケアになるため医師や看護師の管理が必要です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の受け入れが可能な老人ホームは、高度な医療ケアが提供できる環境、また老人ホーム内に医療施設があり、たえず医療スタッフのバックアップが期待できる施設でなければなりません。
みんなの介護に掲載されている約9,000か所の老人ホームのうち、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の受け入れが可能な施設は約1,507か所。受け入れ可能な老人ホームは少なめです。老人ホームの傾向を見てみると、24時間医療機関と連携できる環境、24時間看護師常駐、日中看護師常駐など、医療面の強化を謳う施設が多くなっています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の老人ホームの受け入れ体制は?
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は筋肉が少しずつ委縮し、やがて日常生活に支障がでる神経性の病気です。難病指定されており、病気の原因特定や治療法はまだ確立されていません。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が老人ホームへの入所を希望する場合、施設側の受け入れ態勢がととのっていなければ不可能です。
有料老人ホームにおけるALS患者の受け入れ割合は全体の約18%となっており、入居先はかなり限定されます。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の受け入れに難色をしめす老人ホームが多いのは、さまざまな医療ケアが必要になるためです。筋肉の委縮は体にさまざまな障害をもたらします。
食事や水分の摂取が困難になる「嚥下障害」では、介護食の提供や食事介助が必要ですし、口から栄養が摂取できなければ胃ろう造設や中心静脈栄養の導入になります。
体中の筋肉が衰えるため「寝たきり」になると床ずれ防止の体位変換やオムツ交換、入浴介助、急変時の対応など介護職員にもかなりの負担がかかります。ALS患者の受け入れ実績のある老人ホームでは、患者に対するケアのノウハウが蓄積されています。実績のある老人ホームを選ぶことで、入居者はもちろん、その家族も安心できるでしょう。
介護・看護職員はALSという病気に対する理解や対応の方法、さらに患者に対する心のケアも必要です。ALSと診断されると、気持ちが落ちこんだりうつ状態になる方が大勢います。施設職員はALSの患者がこのような精神状態になることを把握し、必要に応じて話しを聞く(カウンセリング)や、薬物療法などで対応します。
さらに患者のうち約2割の方に、高次機能障害や前頭側頭型認知症の症状がでることがわかっています。これら病気の発症によって、同じ行動や言葉を何度も繰りかえす、同じ食べ物ばかり食べたがる、特定の物事に固執する、精神的に不安定になるなどの症状がでます。老人ホームのスタッフは患者の症状をみながら、体だけではなく精神的なケアも同時におこないます。
老人ホームに入所すると何かと不安なことが多いもの。けれど介護施設の職員は介護や看護のプロ。とくにALS受け入れ実績のある老人ホームなら安心です。プロがおこなうケアに期待したいですね。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、一体どのような病気なのでしょうか。
この病気は脳神経細胞(運動神経細胞)が侵されることで発症する病気です。運動神経細胞が機能しなくなると、脳や末梢神経からの指令が筋肉へと伝わらなくなります。「右手を動かして箸を持って食事を食べなさい」という脳の指令は出ても、運動神経細胞が機能しないため筋肉への信号がうまく伝わりません。このため患者の体が動きにくくなる、また動かなくなります。
このとき、腕や足の動きに異常を感じた患者の74.2%が、整形外科や一般内科、脳神経外科などを受診しています。
一般内科、整形外科など(74.2%) | |
神経内科(25.8%) |
さらに、舌の動きが悪くなり話しにくくなる、食事の飲みこみが悪くなるなど舌やのどの筋肉が低下する「球麻痺」で受診した方の61.5%が、一般内科や耳鼻咽頭科、整形外科などの診療科目を受診しています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断・治療ができるのは「神経内科」だけです。もし整形外科や内科を受診しても症状が1か月以上治らない場合は、神経内科を受診しましょう。
一般内科や耳鼻咽頭科、整形外科など(61.5%) | |
神経内科(38.5%) |
では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症すると、その後どうなってしまうのでしょうか。病気のため筋肉がどんどんやせ細っていき、立つ・歩く・座るなどの日常生活動作に問題がではじめ、最終的には寝たきりの状態になります。
ただ、この病気は運動神経細胞のみ侵されるだけで、知覚神経や自律神経には異常がみられないため、五感(視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚)や認知機能、知性に関しては問題ありません。ALSの患者は皮膚がかゆいという感覚はありますが、かゆい皮膚を掻くための動作ができなくなります。ALSは体中の筋肉が萎縮する病気ですが、心臓や胃腸の動きは自律神経によってコントロールされているので内臓機能には問題はありません。ただし「呼吸」は呼吸筋と自律神経でコントロールされているので、病気の進行とともに呼吸がしにくくなり、最終的には人工呼吸器をつけることになります。
この病気は比較的早く進行すると言われていますが、進行速度に関しては個人差があります。4~5年で症状がすすむ患者がいる反面、10年かけてゆっくり症状が進行することも。早めの診断と治療によって、すこしでも病気の進行を遅らせることが重要です。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療には服薬がありますが、運動療法や栄養管理、呼吸管理などによって生活の質(QOL)の低下をおだやかにできることがわかっています。とくに運動療法は病気の進行を遅らせ生存期間の延長が期待できると言われているため、老人ホームでもALS患者の体調や病気の進行度をみながらリハビリをおこなうことも。筋トレよりもゆったりした有酸素運動の方が効果が高いため、無理なくゆっくり体を動かすことが病気の進行防止には役立ちます。