中心静脈栄養(IVH)の対応が可能な施設特集
高度な医療技術を備える介護施設です

静脈に挿した点滴から送り込まれる高カロリー輸液から栄養を摂取する中心静脈栄養(IVH)。「衛生管理が大変」「血栓ができやすい」などの問題が起きやすく、高度な医療技術を必要です。そのため、胃ろうをしている人の方が介護施設に受け入れられやすい傾向にありますが、もちろん、介護付有料老人ホームをはじめ、中心静脈栄養(IVH)への対応が可能な施設もあります。数少ないながらも、ここでご紹介する施設から条件に合った施設をお選びください。
中心静脈栄養(IVH)患者の受け入れ可能な老人ホームは意外と少ない!?
中心静脈栄養(IVH:Intravenous Hyperalimentationの略。高カロリー静脈栄養輸液という意味)は完全静脈療法(TPN(total parenteral nutrition))ともよばれ、口から栄養が摂取できないことに加え、消化器の機能が著しく低下して栄養が摂取できない患者に対しておこなわれる療法です。消化器が機能していれば胃ろうや腸ろう、経鼻経管栄養での長期栄養管理法でも対応できるのですが、それができない場合に選択されます。
中心静脈栄養では鎖骨下静脈や大腿静脈の下大静脈から穿刺(せんし)し、心臓にちかい上大静脈まで栄養をおくるためのカテーテルを挿入。輸液のラインの確保をおこない、静脈に対して高カロリーの輸液をおくります。輸液の成分は、水分はもちろん、糖質、脂質、ビタミン、アミノ酸などがはいっています。中心静脈に一度カテーテルを挿入すれば、あとはそのカテーテルに栄養を流しこむだけ。何度も挿入する必要はありません。
「必要な栄養を体内に入れるには、腕の静脈に点滴すればいいのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、点滴は補助的な役割にとどまるもの。また高カロリー栄養剤を腕の静脈に入れると苦痛を感じ、長期的な栄養管理法とはなりません。静脈瘤を起こす可能性があるため、腕の静脈から高カロリー輸液の補給はむずかしいのです。その点、上静脈などの中心静脈にカテーテルを挿入すれば痛みが少なく、つねに高濃度の輸液を投与することができます。嚥下機能と消化器機能が低下した患者の、最後の栄養管理法なのです。
この中心静脈栄養にもリスクが。もし中心静脈栄養の患者が老人ホームに入所を希望しても、なかなか思うように受け入れ可能施設が見つかりません。その理由は「管理のむずかしさ」。
中心静脈がカテーテルを介して外部の空気と触れる環境にあるため、カテーテルに細菌が繁殖するとそれが患者の体内に侵入、感染症(敗血症)を引きおこしてしまう怖いリスクがあります。そのため感染症が起きていないかどうか、しっかりとした観察が必要なのです。老人ホームの職員は医療ケアを提供することができませんし、敗血症などの合併症が起きても医療知識がなければ見逃してしまうかもしれません。老人ホームが医療スタッフによって十分に管理された環境になければ、中心静脈栄養の患者を受けいれることができないのです。
みんなの介護に登録されている老人ホームは全部で約9,000施設。そのうち中心静脈栄養の患者が入所できる施設は約1,023か所。入居できる施設は限られてきます。入居可能な施設をみると老人ホームにクリニックが併設、または隣接している、24時間看護師が常駐している、日中看護師が勤務し、夜間になにかあれば提携している病院やクリニックですぐに対応してもらえるなど、医療面が充実しているのが大きな特徴となっています。
有料老人ホームにおける「医療処置が必要な入居者の受入割合」をみると、中心静脈栄養(IVH)の患者は10%程度の受け入れ率にとどまります。これは「老人ホームでの受け入れがむずかしい」と言われる人工透析患者の33%よりもさらに低い数値。中心静脈栄養の患者は、より広いエリアでの入居先探しをする方が良いでしょう。エリアが広がれば広がるだけ、受け入れ可能な施設が増えます。
中心静脈栄養(IVH)とは?
中心静脈栄養(IVH)とは、鎖骨下や大腿部から中心静脈に対してカテーテルを挿入し、高濃度の栄養剤を中心静脈から常に注入する栄養管理法です。一般的に栄養補給のためには胃ろうや腸ろう、経管栄養法が使用されますが、それができないケースも。炎症性腸疾患、炎症による小腸閉塞、消化管瘻など消化器から栄養の取りこみが困難な患者に対して、また大腸の全摘出、食道ガン手術腹部大動脈瘤などの大手術をおこなった患者、集中的化学療法を受けている患者などとくに栄養状態のよくない方に対してもおこなわれます。
中心静脈には糖質や脂質、ビタミン、電解質、アミノ酸なのが配合された高濃度の栄養剤を補給します。一日に必要な栄養素を患者の体内に確実に送りこむことができるため、すぐれた栄養管理法ではあるのですが、その管理には細心の注意をはらわなければなりません。
とくに発生する可能性の高い合併症が「敗血症」です。栄養剤と中心静脈とはつねにカテーテルで結ばれているため雑菌が侵入することが。一度カテーテル内から体内に細菌が侵入すると、敗血症を引きおこす可能性が高くなります。敗血症になると抗生剤を投与して全身状態を観察しますが、容体が悪化する場合はすぐにカテーテルを引き抜く処置がとられます。
敗血症以外にもカテーテルの内部や周辺に血栓が発生し、カテーテル内部がつまってしまうことも。そのときもすぐにカテーテルの引きぬきをおこないます。ほかにもカテーテルを挿入後、時間がたつと位置がずれてしまうことも。カテーテルが体内で断裂してしまう可能性も0ではないため、看護師はつねに患者の容体に変化がないか、観察しなければなりません、発熱や胸の苦しさなどの異常があれば、すぐに医師に連絡し、迅速に対応します。
中心静脈栄養(IVH)は「感染(敗血症)を起こしやすい」「血栓ができる可能性がある」「患者の全身状態をつねに観察する」管理のむずかしさがあげられます。
さらに、栄養管理についても細心の注意が必要です。栄養剤のうち約2割が糖分ですが、栄養剤の投与時間が早すぎると高血糖になり、遅すぎると低血糖になるリスクがあります。患者に最適な投与時間を把握しなければなりません。輸液の投与時間が早いと高脂血症になる可能性もアップします。ほかにもビタミン欠病症、微量元素欠乏症、電解質異常、胃炎や胃潰瘍、消化器官が使われなくなることによる消化管粘膜の萎縮などさまざまな合併症の危険があります。医療ケアの必要な患者にはなにかしら合併症のリスクがありますが、とくに中心静脈栄養の患者は合併症が多い傾向にあります。
このように管理が大変なことから、IVH患者の受け入れ可能な老人ホームは数が限られるのが現実です。
中心静脈栄養(IVH)と経管栄養の違いは?
中心静脈栄養(IVH)と経鼻経管栄養は、どちらもカテーテルを使用した栄養管理法です。
中心静脈栄養(IVH)の場合は中心静脈にカテーテルを直接挿入し、高濃度の栄養剤を「血管」に直接補給します。これに対して経鼻経管栄養は鼻から咽頭、食道、胃へとカテーテル(チューブ)を差しこみ、「胃」にむけて直接栄養剤を流しこむ栄養管理法です。経鼻経管栄養はチューブを差しこむだけなので、手術などの特別な医療的処置は必要ありません。看護師が定期的にチューブの取りかえをおこないます。中心静脈栄養(IVH)の方は鎖骨下や太ももから針を刺し、中心静脈にむかってカテーテルを挿入するため外科手術が必要になります。体にキズが残ってしまうのが大きな違いです。
経鼻経管栄養はチューブの差しこみ口を念入りに消毒する必要はありませんが、中心静脈栄養(IVH)の場合は挿入部をつねに清潔にする必要があります。患者が無意識のうちに触り、不潔になることも。患者が針を引きぬくこともあるためミトンの手袋を着用し、手の動きに制限をくわえることもあります。中心静脈栄養(IVH)と経鼻経管栄養では感染症への対策で大きな差があります。中心静脈栄養(IVH)には高度な感染対策が必要です。
誤嚥に関しては、経鼻経管栄養の方がリスクが高くなります。チューブを挿入するさいに、誤って肺に差したまま栄養剤を落とすと、窒息という命にかかわる重大な事態に。確実にチューブが胃に到達したかどうかの確認は、注射器をつかって胃の内容物を引きだすことのみです。医師や看護師などの有資格者ではない者がチューブを差しこむのは違法行為となります。