園芸・庭園ありの施設特集
菜園・庭園での園芸が介護予防や認知症に効果を発揮!?

高齢者にとって、菜園や庭園で行う園芸は、単なる趣味というだけでなく、実は介護予防や認知症予防にも効果があるものとされています。民間ではありますが、「園芸療法士」という資格もあるくらいで、実際に介護の現場では効果を発揮しているようです。設備の整っている有料老人ホームの他、認知症患者の症状進行を抑制するためにグループホームでも積極的に取り入れられているので、興味のある方はそうした施設を探してみてはいかがでしょうか?こうした施設は、入居後もアクティブに過ごしたいという方にとっては、最適の環境と言えるでしょう。
運動不足の解消だけでなく、認知症予防の期待もできる“園芸療法”
美しい花をながめ、その芳しい香りを楽しむことは人生を豊かにします。なにもない殺風景な部屋にたった一輪花を飾っただけでも、部屋の雰囲気が明るく華やかになり気持ちも上向きに。たとえ小さな花束でもプレゼントされれば嬉しいものです。
花はただお店で購入する、人からプレゼントしてもらうだけではありません。プランターや庭に種や苗を植え、四季折々の花々を楽しんでいる方もいます。花だけではありません、野菜もプランターや庭で育てることのできる作物です。庭やプランターなどで花や野菜などの緑を育てることで、人の心を癒すことが「園芸療法」と呼ばれ、今注目されています。
庭や畑で作物やお花を育てる園芸療法が「介護予防や認知症予防に役立つ」と言われています。それにはどのような理由があるのでしょうか?
園芸療法にはさまざまなメリットがあります。まずは「運動不足解消の効果」。畑や庭で作物を育てるには、さまざまな作業を行います。鍬で土を耕し肥料をまぜ、基礎となる土から準備しなければなりません。本格的になると畑を耕したあとに畝立て、そして雑草とりの手間をはぶくためにマルチシートを敷くことも。
種や苗の植えつけや水やり、雑草取り、まびきなど、作物をしっかり育てようと思うと、積極的に体を動かさなければなりません。このときの動きが運動不足解消に大いに役立ちます。自宅や老人ホームにこもりきりになれば骨や筋肉量が低下し、介護度があがる原因になることも。園芸療法により体を動かすことが「介護予防」にもつながるのです。
また、園芸療法によって育てるものは「作物」だけではありません。「一緒に作業する方との仲間意識」も同時に育みます。「苗がこんなに大きくなった」「もうすぐ実がなるね」と一緒に作業している仲間と汗を流し、ともに喜ぶことでコミュニケーションも活発になり仲間意識も芽生えて連帯感もうまれます。
園芸療法は、認知症予防や症状緩和にも役立つレクリエーションのひとつです。四季に応じたお花や野菜を育てることで「トマトが収穫できましたね。夏になると本当に暑いですね」「サツマイモが大きくなって、秋になりましたね」と季節を感じることができます。認知症になると日付や季節を正しく認識できなくなる傾向がありますが、季節を感じられる野菜の収穫や花の鑑賞は、鈍った季節感を呼びさますことにもつながるのです。日一日と大きくなる作物を観察することや、それをみんなで収穫し調理することも楽しみのひとつと言えます。
みんなの介護には9,000施設以上の老人ホームが掲載されています。そのうち約2,700弱の施設で実際に園芸療法が実施されていることから、園芸療法が人気のあるレクリエーションであることがご理解いただけると思います。とくに認知症高齢者を受け入れているグループホームでは、認知症予防や症状緩和のために取りいれている施設が多い傾向です。
認知症予防や介護予防のために、園芸療法を取りいれている老人ホームを選ぶのもひとつの考え方だと思います。
園芸による効果は高齢者の心身に!?
園芸療法が高齢者の心身に与える影響は少なくありません。
先ほど説明したように、普段から運動不足の高齢者にとって、お花や野菜を育てるために手足を動かすことは良い運動になります。体を動かすことで血液の巡りが良くなり脳への血流量がアップすると、脳に酸素や栄養分(ブドウ糖)がたくさん供給されることになり脳神経細胞が活性化。認知症防止や症状緩和に役立ちます。
最近は「アロマセラピー」が、認知症防止や症状改善に役立つと発表されており、そのエビデンス(医療における科学的根拠)も得られています。芳香を放つきれいな花の香りを楽しむことが認知症患者にとって良い影響を与えるのです。アロマセラピーは精油(エッセンシャルオイル)と呼ばれるオイルを使うと手軽に楽しめます。精油は「果物の果皮や植物の花や葉などから抽出された成分を、ぎゅっと凝縮させたエキス」のことです。オレンジやレモン、ローズマリーカンファー、真正ラベンダーの精油が認知症の改善に役立つとされており、大変人気があります。認知症防止用として特別にブレンドされた精油が販売されていますので、一度試してみるのもよいでしょう。
園芸療法には香りや運動不足解消の効果だけではなく、ほかにもさまざまな効果があります。実際に土に触れたことがあれば理解できるかもしれませんが、土には独特の香りがあります。鍬や耕うん機で土を耕すと、土独特の香りがあたり一面に漂い、手でさわるとしっとりとした湿った感覚や冷たさを感じます。土のなかにはミミズや小さな虫もたくさんいます。
土の香りは嗅覚を、しっとりした冷たい感触は触覚を、小さな虫の動きは視覚を刺激します。実際に作物を育てると、一日一日と成長する花や野菜を見て時間の流れや季節を感じることができますし、野菜の実や葉が色づくことで視覚をさらに刺激するメリットも。
無事に収穫できた野菜を老人ホームの入所者や家族とともに調理して口にすれば、味覚もお腹も満たされます。園芸療法は人間の五感をさまざまな方向から刺激します。この刺激が脳へ良い影響を与えるのです。
認知症を発症しやすい方は、家に閉じこもりがちで体を動かさず、曜日や時間を気にすることなく漠然と1日を過ごしやすいという特徴があります。もちろんこのような生活をしている方が100%認知症を発症するわけではありませんが、ほかの方よりもリスクが高いと考えた方がよいでしょう。
とくに趣味がなく一日中テレビばかり見ているようなライフスタイルでは、脳や体にもよくありません。適度に体を動かす園芸療法で、認知症予防を始めてみてはいかがでしょうか?
園芸療法がリハビリの一環に
「園芸療法」をリハビリの一環として取りいれている老人ホームが、全国に多数あります。これにはどのような意味があるのでしょうか?
リハビリは、ただ介護職員やスタッフから言われた通りに「機械的に体を動かせばよい」というものではありません。もちろんそのようなリハビリもありますが、マンネリ化すると長続きしないでしょう。これは高齢者に限ったことではありませんが、「もっと体を動かしたい」「もっと作業がしたい」「楽しい」という、心の底からわきあがる意欲や喜びがなければ、自発的に行動することはできません。
園芸療法がリハビリに向いている理由は、その対象となるものが「作物」であることです。作物は生きものです。定期的な水やりや雑草取り、まびきなどで能動的に関わらなければ、作物はやがて枯れてしまいます。
目の前の野菜が枯れそうであれば「水をあげなければ枯れてしまう」「雑草をとらないと、野菜が雑草に埋もれてしまう」と自分の意思で積極的に行動するはずです。愛情をこめて手を入れれば、最後はきちんと花が咲き、実がつきます。苦労して育てた果物や野菜を一緒に汗を流した仲間とともに味わい、きれいに咲いた花を部屋に飾ることで心も満たされるでしょう。
リハビリルームで体を動かすことはたしかに運動不足解消になりますが、続けることで習慣的な動きになってしまい「生きがい」とまでは感じられません。狭い空間で指導されたとおりに体を動かすよりも、「草花を育てる」というひとつの目標に向かって、仲間と協力して積極的に動く方がより意欲的になれます。
収穫した野菜をつかって調理するのも、よい生活リハビリになります。料理をつくるためにはメニューを考えたあとに材料をそろえ、下ごしらえや調理、味付け、盛りつけ、配膳などの作業を手際よく行う必要があります。ところが認知症を発症するとゴールを設定し、そこにいたるまでの手順をきちんと考えることができなくなるのです。
老人ホームの入居者や介護スタッフと一緒に収穫した野菜で料理をつくることは、認知症高齢者にとって味覚を刺激するだけではなく生活リハビリにもなり、症状緩和にも良い影響を与えます。園芸療法は単純に花や野菜を育てるだけではなく、高齢者の意欲や仲間との連帯感も育てるという大きなメリットも。園芸療法の主役は花や野菜ではなく、園芸療法を楽しむ高齢者自身なのです。