大病院が多く、実は高齢者が安心して住まえる街
日本一の繁華街である歌舞伎町や、都庁があることで有名な新宿区。この区で生活を送るうえで高齢者が安心できる点は、病院数が多いことです。
板橋区、八王子市に次いで3番目に病院が多い自治体であった(2009年時点)というデータに加え、慶應義塾大学病院や東京医科大学病院、東京女子医科大学病院などの大学病院をはじめ、国立国際医療研究センター戸山病院などの大病院が集中。
もしものときにこれだけの医療機関がすぐそばにあるのは、高齢者やその家族にとって大きなメリットです。
新宿区といえば「ゴミが散乱していそう」「治安が悪そう」といったイメージをお持ちの方が多いようですが、落合や牛込などの地域は閑静な住宅街で、実際に老人ホームはそういったのどかな地区に数多く建っています。
また、少し足を伸ばして新宿御苑などに行けば、都心とは思えないほどの豊かな緑があるので、のんびりと落ち着いて過ごすことも可能です。
何より交通の要衝である新宿駅があり、JR、東京メトロ、都営バスなどさまざまな公共交通機関が使え、入居者にとっては外出しやすく、また入居者の家族にとっては会いに行きやすいというメリットも大きいでしょう。
新宿区では65歳以上の高齢者数が総人口の2割弱
新宿区は、新宿駅を筆頭に四ツ谷駅や高田馬場駅といった主要駅が多く、都市機能が発達した街で若者も多く、総人口は約35万人。
そのうち65歳以上の高齢者数は、総人口の2割弱となっており、高齢化率は東京23区の中で5番目に低くなっています。
2023年の調査によると、新宿区の高齢者人口は約6万6,974人。この数字は、2025年までは概ね横ばい状態が続くと予測されています。
しかしその後は増加し、2035年には約7万4,000人、2045年には約8万5,000人となり、新宿区の高齢者数は2015年から約1.4倍増加すると予測されています。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
ちなみに、2023年の日本全体の高齢化率は29.0%のため全国平均と比較してもかなり低い数値となっています。
全国平均に対し、新宿区の高齢化率は2023年には19.3%となっていますが、2035年には20.3%と20%を超える見込みです。
特に新宿区では、75歳以上の後期高齢者が大幅に増えるといわれています。
2015年に3万3,000人だった75歳以上人口は、2023年には約3万7,000人まで増加。2035年までは一旦横ばい状態となり、その後2035年以降は増加に転じる見込みです。
予測通りに行けば、2015年に9.8%だった新宿区の75歳以上人口の割合は、2040年には約11%、2060年には約16%となり、新宿区民の6人に1人は75歳以上の高齢者となるでしょう。
2030年には要支援・要介護認定率が22.6%になると予測
日本で介護保険制度が施行されたのは2000年。その後、要支援・要介護認定者が年々増加しているため、2006年に介護保険法が改正され、介護予防重視型に移行しました。
新宿区は歴史が長く地場産業などが活発で、20代前半の若者の転入者が多いエリア。比較的若者の比率が多い街ですが、高齢者が徐々に増えるとともに、要支援・要介護認定者も増加しています。
2017年の調査によると、新宿区の要支援・要介護認定者数は1万3,374人。2000年の介護保険制度施行時よりも、約2.3倍増、2024年には1万4,936人となっています。団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年に急激に高齢化は進み、2030年には要支援・要介護認定率は 22.6%になると予測されています。
新宿区が実施した高齢者向けのアンケートによると、「最期を迎えたい場所」に「自宅」を選んだ人が最も多く、「在宅介護や在宅看護サービスを利用しながらでも、最期まで自宅で生活したい」と願う人が多いことがわかりました。
そのため、新宿区では地域包括支援センターを中心として介護保険サービスを普及させ、必要な人に必要なサポートが届くように配慮しています。
実際に利用できる介護保険サービスとしては、家事代行や身体介護サービスがうけられる「訪問介護」や、看護士が自宅訪問し医療サポートをしてくれる「訪問看護」、理学療法士による「訪問リハビリテーション」などの居宅サービスがあります。
ストレッチや筋力トレーニングを行う「新宿いきいき体操」を実施
調査によると、新宿区では健康で元気な高齢者の方が多いことがわかりました。
要支援1以上の認定を受けるまでを健康とすると、新宿区の高齢者は、東京23区内で男性は14番目、女性は3番目に健康寿命が長いという結果に。
ほかにも健康寿命を定義する考え方はありますが、新宿区はいずれの定義に当てはめても健康寿命が長めで、65歳を超えても要支援・要介護の認定を受けていない人が比較的多いようです。
この事実にあぐらをかくことなく、新宿区ではさらなる健康維持・介護予防のため、新宿区はさまざまな介護予防事業を実施しています。
具体的には、65歳以上の要支援・要介護認定を受けていない高齢者を対象に、介護予防教室を実施。
「げんき応援教室」「腰痛・膝痛予防教室」など無料の教室から、「脳はつらつ教室(認知症予防)」「シニアバランストレーニング教室」「シニアスポーツチャレンジ教室」などの有料教室まで、多種多様な教室を開催しています。
また「新宿いきいき体操」では、「平成新宿音頭」をアレンジした曲に合わせて、ストレッチや筋力トレーニングを実施。これらは介護予防だけでなく、体力アップや動きやすい体づくりにもつながるのがポイントです。
新宿区は、高層ビル街や大規模繁華街とともに、学生街や多国籍街、閑静な住宅街も広がるエリア。そういった新宿区独自の特色を生かしながら、高齢者がずっと現役で生活を楽しめるよう、介護予防事業を推進しています。
訪問診療などの「自宅で利用できる医療サポート」の充実を進めている
高齢者が住み慣れた場所で支援を受けながら暮らしていける環境をつくるため、2012年に「地域包括ケアシステム」の推進活動が始まりました。
新宿区も高齢者を支えるため、地域ぐるみのケアシステムを構築中で、居宅サービスを提供する事業所の支援や、自宅での生活が困難になった人がスムーズに施設に入居できるよう、施設サービスを整備・増設しています。
新宿区は、一人暮らし高齢者の割合が高いのが特徴。その割合は東京23区の中で3番目に高く、高齢者の3人に1人は一人暮らしをしています。
新宿区では、介護が必要になっても家族の支援を得られない高齢者が多いため、なるべく自宅で自立した生活が続けられるようさまざまな生活支援を実施し、孤立化や孤独死の防止にも力を入れています。
2016年に新宿区が実施した高齢者向けのアンケートによると、9割弱の高齢者が「住民同士の相互支援など、地域のつながりが必要」と感じていることが分かりました。
そのため、地域住民との交流や声かけの推奨、高齢者のボランティア活動などを通した地域参加などを支援しています。
先述したように、新宿区は大規模病院が多いのが魅力です。人口10万人あたりの一般病床数を調べると、東京23区内でもトップクラスに入ります。
しかし、在宅療養を望む高齢者が増えるという予測のもと、訪問看護や訪問診療などの「自宅で利用できる医療サポート」の充実に努めています。
新宿区の福祉サービス運営適正化委員会とは?
新宿区では、高齢者の悩みや苦情に対応する相談窓口を設置しています。
新宿区社会福祉協議会では「苦情解決制度」を導入。「福祉サービスを利用しているが、ヘルパーさんと話が合わなくて辛い」など、福祉サービスへの苦情や悩みに対応し、権利を擁護しています。
苦情だけでなく「自分に合った福祉サービスはどれか?」といった相談も可能。さまざまなサービスの中から、適切なものを紹介してもらえます。
また、地域包括支援センター「高齢者総合相談センター」では、保健師や社会福祉士などの専門スタッフが相談に乗っています。
もともと、福祉サービスの紹介や利用手続きのサポート、介護予防の支援などもしているため、「福祉サービスを利用したけれど、手続きなどが分からない」「介護を必要としない元気な自分でいたい」といった相談も気軽にできるでしょう。
さらに、虐待防止活動や、認知症で金銭管理などができない高齢者のために成年後見制度などを実施しているので、生活のなかで困っていること、健康のこと、お金のことなど、基本的に何でも相談できます。
また、新宿区の福祉総合電話相談事業では「福祉総合電話相談」を実施。相談は無料で、必要な場合は弁護士などによる面接相談も実施しています。