太平洋型気候で高齢者にとっての過ごしやすさは全国でも上位
東京と名古屋という大都市圏の中間に位置し、独特の文化を築いて発展してきた静岡市は、2005年に政令指定都市へと移行しました。
その面積は全国の市の中で5番目に広く、人口も県内では浜松市に次いで2番目に多くなっています。
高齢化率は2025年時点で30.7%にまで上昇すると同時に、要支援・要介護認定者や認知症高齢者もそれに比例して増加していくと見込まれています。
そんな状況下において、全国的な例に漏れず静岡市でも、特別養護老人ホームの入所希望が多く、数多い待機者がいるというのが現状。
そのため、介護保険の事業計画では、新規施設の整備とともに、老朽化した施設の建て替え実施が予定されています。
また、有料老人ホームも決して多いとは言えず、選択肢の幅も狭くなっていますが、かかる費用が低額のところが多いという特徴があります。
月額利用料が15万円台~というところが多く、政令指定都市に指定されている他の19の都市を見渡しても、入居にあたっての経済面での負担は少ないと言えるでしょう。
政令指定都市といっても、いわゆる大都会然とした雰囲気はそれほどなく、のんびりとした雰囲気が街の魅力です。
特に清水区には、日本三大美港である清水港、日本三大松原である三保の松原があるなど、風景美に長けています。
市全体を見渡しても、一大産地である茶畑が広がり、栽培の盛んないちご畑もたくさん。
そこかしこから良い香りが漂ってくるのは、空気がキレイな証拠とも言えるでしょう。
また、典型的な太平洋型気候であり、特に温暖な冬場の過ごしやすさは特筆ものです。
ただし、ひとつ難点があります。
それは、交通網の不便さがあること。
JRと静岡鉄道には特急や快速がなく、静岡から清水までという市内の移動も意外と時間がかかります。
一方で、静清バイパスは慢性的な渋滞。
現在は車線が拡大されている徐々に渋滞問題も緩和しつつありますが、静岡市内の老人ホームに入居した後、家族が面会に行く際には少しの難点があることは頭に入れておいた方が良いでしょう。
静岡市は日本全体の平均よりもやや高い高齢化率で推移する見込み
静岡市の人口は国・県よりも20年早くピークを迎え、1990年に73万9,300人を記録して以降、年々減少しています。
2023年には政令指定都市20市の中で最も少ない68万3,739人となりました。
特に年少(0~14歳)人口の減少幅が大きく、1975年時点で既にピークを迎え、その後年々減少。
年少人口の割合は、1975年時点では25.2%でしたが、2023年には10.9%にまで減っています。
また生産年齢(15~64歳)人口も、1990年をピークに徐々に減少。
1990年は51万9,833人でしたが、2023年には44万7,624人となっています。
その一方で増加傾向を見せているのが高齢者(65歳以上)人口。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
1990年時点では8万6,043人でしたが、2005年には15万2,939人、2023年には21万922人と急増中です。
1990年以降、総人口が徐々に減少しているのに対し、高齢者人口は急増しているのです。
高齢化率の推移をみると、1990年に初めて10%を超え、2005年には21.1%、2010年24.7%、2023年30.8%と急ピッチで上昇。
2025年には32.7%に達すると予想されています。
日本全体に比べ、静岡市は日本全体の平均よりもやや高い高齢化率で推移していくと考えられています。
高齢者人口そのものは将来的に21万人弱の人口数で横ばいに推移していくと予測されていますが、年少人口、生産年齢人口の人口減が進んでいくため、高齢者人口の総人口に占める割合は年々高くなっていきます。
委託サービスが徐々に増えている
静岡市の介護保険サービスの利用者数は、現行の介護保険制度が開始された2000年度は8,493人でしたが、2010年度には2万4,927人、2020年度には3万1,413人、2024年度には4万1,330人に増加しています。
サービス利用者数は、制度施行年度に比べて約4.8倍。
高齢者人口の増加と共に要介護認定者数(要支援、要介護)も年々増加しており、介護サービス利用者数もそれに伴って増加しているという状況です。
2025年度には団塊の世代が後期高齢者世代を迎え、また認知症高齢者も年々増加傾向にあることから、介護サービス利用者数は今後さらに増えていくと予想されています。
なお、介護保険サービスの利用状況としては2024年時点で居宅サービスが7割弱、次いで地域密着型と施設サービスがともに15%弱となっています。
静岡市独自の「しぞ~かでん伝体操」で介護予防に取り組む
静岡市が行っている介護予防の取り組みは、他の自治体に負けず劣らず多彩で、地域色豊か。
中でも静岡市の特色が現れているのが「しぞ~かでん伝体操」です。
これはアメリカ国立保健研究所・老化医学研究所の研究成果を基に作られた、静岡市独自の介護予防体操。
体操そのものの普及活動に力を入れているほか、地域の高齢者が「しぞ~かでん伝体操」に取り組む自主グループを立ち上げる際に市が支援を行ったり、自由に体操に参加できる場の提供を行ったりしています。
また、県内各地の公民館、デイサービス、スポーツクラブなどで「しぞ~かでん伝体操」の教室が開催されています。
参加資格は65歳以上で要介護認定を受けていない方のうち、介護予防のための基本チェックリストの診断結果から、介護予防事業に参加することが望ましいと判断された方です。
基本チェックリストは市内の地域包括センター、保健福祉センター、そして「健康長寿ネット」のホームページで習得することができます。
さらに、同じく市内各地で行われているのが「元気アップ講演会」。
65歳以上の方であれば誰でも参加することができ、無料で転倒予防、認知症予防のためのトレーニングに取り組めます。
ただし会場によっては上履きが必要で、その都度トレーニングに必要なもの(輪ゴムやタオルなど)を用意する必要があります。
地域包括ケアでは「自宅でずっとプロジェクト」を推進
静岡市では、住み慣れた地域で人生の最期の時まで自分らしく生活できるように、「静岡型地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。
ここで言う「静岡型」とは、市が力を入れている「自宅でずっとプロジェクト」のこと。
医療・介護職の連携による支援の輪、そして地域市民の連携による支援の輪を作り、高齢者が自宅でずっと暮らせるように支援していくというのが、静岡型地域包括ケアシステムの基本的な考え方です。
静岡市は、この静岡型地域包括ケアシステムのあり方を以下のように富士山に例えて説明しています。
- 八方に広がる富士山の裾野は、「いつまでもずっと健康で人生を楽しめるまちづくりを目指すための幅広い施策の連携」
- 富士山の本体である山腹は、ずっと自立して暮らせるように介護予防・生活支援と住まいの確保を行い、「つながる力」と「元気な高齢者」を活用した地域の市民の連携
- 白く輝く山頂は、医療・介護が必要な状態となっても自宅でずっと暮らせるようにするための、「つながる力」に基づく医療・介護分野の連携
つまり、幅広い施策の連携を土台とし、その上に地域の市民の連携があり、さらにその上に専門職の連携がある、という構造になっているわけです。
この三層構造で、高齢者本人とその家族が住み慣れた自宅で楽しく生活できるように支えていくというのが、静岡型地域包括ケアシステムの目指すところです。
静岡市の「静岡市介護相談員」とは?
静岡市では、介護施設等での介護サービス利用者の疑問、不満、不安などを解消するための「介護相談員派遣事業」を行っています。
介護相談員は、介護サービス利用者の苦情、不満を聞き、その上で利用者とサービス提供者双方の橋渡し役となって、問題解決のための支援を行います。
介護相談員は、市民の中から相応しいと思われる人格、熱意を持っている方に市長が委嘱するという形で選ばれます。
委嘱を受けた場合、5日間の研修を受けた後に市内の各施設に派遣。
毎年度ごとに2日間の現任研修等を受講し、スキルアップに努めていくことになります。
また年に数回にわたって介護相談員同士の情報交換会が開催され、有志による介護相談員自主勉強会も随時行われています。
2016年4月時点では、33名の介護相談員が選任。
それぞれ市内の介護サービス事業所・介護施設を1~2名で月1回の割合で訪問し、利用者の声を聞いています。
介護相談員の派遣受け入れ事業所数(2016年10月時点)は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)が35、介護老人保健施設が21、特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム等)が14、地域密着型介護老人福祉施設が4、グループホームが69といった状況です。
相談内容は日常生活の中で感じることが中心。
「介護施設で楽器の演奏をしたい」、「いつもコップに飲み物をたくさん入れてくれるが、力が弱り重たくて持てない」「事業所内にある椅子に座っていると痛みがある」といったことがその例です。
どんな疑問、不満にも丁寧に対応してくれるので、介護サービス利用者はどんどん活用すべきでしょう。