訪問歯科による口腔ケアが受けられる施設特集
訪問歯科を実施している介護施設で、適切な口腔ケアと歯科医療を
要介護の高齢者にとって、自分自身で積極的にケアをできない口腔内の健康状態を正常に保つことは、誤嚥性肺炎や口腔機能の低下を予防するためにもとても大切なこと。加齢に伴う口腔機能の低下は食事を美味しく食べられないだけでなく、深刻な身体機能全体の低下ももたらしかねません。ここでは、要介護者だからこそしっかりとケアをすることが大切な口腔ケアや訪問歯科の充実した介護施設をご紹介します。
歯周病リスクも、口腔ケアがしっかりしている老人ホームなら安心
日本人の平均寿命は年を追うごとに伸びつづけています。1975年、日本人の平均寿命は約74.3歳でした。ところが2000年を過ぎると平均寿命は80歳を超え超高齢社会に突入。総務省統計局の集計では、65歳以上の高齢者数が平成27年9月15日現在推定3384万人。全人口に占める割合は26.7%となっており、4人に1人が65歳以上の高齢者となっています。今後も高齢者数は増加することが見込まれており、2040年(平成52年)には高齢者人口が全体の36%を占めるという予測もあります。高齢者が増えることで要支援・要介護の高齢者がさらに増えることも指摘されています。
要支援・要介護の高齢者は口腔内にさまざまな問題を抱えているにも関わらず、歯科クリニックに通院できないなどの理由で適切な診察が受けられない状況です。高齢者にとって口腔ケアが非常に重要であり、そのニーズが確実に高まっています。
高齢者の口腔ケアへのニーズを受け入れる側の歯科医事情ですが、歯科医の数も高齢者同様、右肩上がりで増えつづけています。歯科医師数や歯科クリニックの増加により、歯科医師の4人に1人が年収200万円以下となっています。サラリーマンの平均年収が400~500万円なのでかなりの低収入です。とくに地方の歯科医にはその傾向が強くみられ、経営状況が確実に悪化しています。歯科医はその生き残りのために、高齢者向けの訪問診療に力を入れようとしています。
「歯科診療総件数に占める訪問歯科診療の割合の推移」では、85歳以上の高齢者が訪問歯科診療を受けた割合が2006年には13.2%となっています。ところが2010年には33.0%まで急増。高齢者が訪問歯科診療を受ける機会が増えている証拠と言えます。高齢者の口腔ケアに対するニーズの増加と生き残りをかける歯科医、利用者とサービス提供者がそろっていることで、今後も訪問歯科診療を受診する高齢者は増えるものと予測されます。
高齢になり適切な口腔ケアが受けられない場合、虫歯の増加や歯周病で大切な歯を失うリスクがあります。歯がなくなると咀嚼機能が低下し食べる楽しみも失われます。十分な栄養が摂取できない場合、体の免疫力が低下する原因に。健康を維持するためにも、虫歯や歯周病予防のために定期的な訪問歯科診療を受けることが重要です。
訪問歯科での治療の範囲は?
訪問歯科ではどのような診療や治療が行われているのでしょうか?訪問歯科診療で個宅や介護施設にやってくるのは歯科医師と歯科衛生士、またデンタルサポートコーディネーターが同行することもあります。口腔ケアだけの場合は歯科衛生士だけが訪問することもあります。状況によりスタッフの高齢や人数が変わってきます。歯科医側は訪問歯科専用の診療セットを一式持参しますので、自宅にいても歯科クリニックと同じレベルの診察や治療が受けられます。
訪問歯科専用の診療セットはグローブやマスク、手指消毒液のほかにも歯を削る機械やポータブルレントゲン、照明装置などがそろっていますので、むし歯治療や歯周病治療、義歯の作成も可能です。「訪問歯科診療だから、どうせたいしたことはできないだろう」と思うのは勘違いであることがおわかりいただけると思います。本格的な診察や治療ができるので、安心して利用しましょう。
訪問歯科診療ではむし歯や歯周病の治療だけではなく、口腔ケアも実施します。この口腔ケアは口の中を掃除して清潔に保つために行われます。通常の歯磨きと同じですが、汚れは歯だけではなく舌や歯ぐきにも付着します。これらの部分もきれいにすることで口の中がきれいになります。口腔内をきれいにして細菌を減らし、衛生的に保つことを「器質的口腔ケア」と呼びます。
口腔ケアには「機能的口腔ケア」と呼ばれるものもあります。口の機能を維持・向上させるためのもので、口のリハビリテーションです。舌を上下左右に動かす「舌体操」をすることや、顔の筋肉を動かすことで唾液の分泌が活発になり、口の動きもよくなります。顔の筋肉を適度に動かすことで表情も出やすくなり、表情筋を動かすことで脳にも適度な刺激が送られます。認知症防止や症状緩和になるかもしれません。
高齢者は特に口腔ケアが大事な3つの理由
先ほど説明した口腔ケアですが、高齢者の場合とくに大切になってきます。その理由として、口腔機能の低下を予防できることがあげられます。機能性口腔ケアは口のリハビリのことですので、舌や顔、口の周りを自発的に動かすことで食事の飲みこみがスムーズになり、誤嚥性肺炎を予防することになります。口腔機能がしっかり働くようになれば食事をしっかり噛んで飲みこむことができるようになり、栄養を口から摂取できます。栄養が摂れると免疫機能や体力もアップし、病気になりにくい体になります。
高齢者にとって口腔ケアが大事な理由はほかにもあります。唾液の分泌をうながし、口の中の乾燥を防ぐことがその理由です。唾液が分泌されると口の中の乾燥を防ぐことができますし、食べ物を飲みこみやすくなります。また唾液には消化酵素が含まれており、よく噛むことで食べ物の栄養分が体に吸収されやすくなります。消化吸収にとっても唾液は重要な役割を果たしています。
そして口腔ケアが大事な理由に誤嚥性肺炎を防ぐことがあります。年代別にみた死亡原因の順位ですが、高齢になればなるほど肺炎で亡くなる方が増えていることがわかります。50歳代までは死亡原因に肺炎はランクインしていません。ところが60歳代になると肺炎は死亡原因の第5位に、70歳代になると第4位にランクアップ、そして90歳以上になると肺炎は死亡原因の第2位になります。
肺炎は気管内に細菌が侵入することで起こります。通常、気管に異物や食事、唾液が入ると反射的に吐き出そうとしますが高齢者や認知症患者はその反応が弱くなり、気がつかないうちに気管に細菌が侵入することがあります。これによって発症するのが誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎を防ぐためには口腔内をきれいに保つことが重要です。口腔ケアを徹底することで肺炎を防ぎます。
訪問歯科の現状は、増加傾向も絶対的に不足!?
では訪問歯科の主な訪問先がどこなのか、厚労省が調査したデータがありますのでご覧ください。無回答をのぞくと訪問歯科の診療先でもっとも多いのは介護保険施設の31.4%となっています。つぎは患者の自宅、そして有料老人ホームやグループホームなど居住系高齢者施設と、その訪問先でもっとも多いのは高齢者施設となっています。
高齢になると自分の力で歯科医に通院することが困難になりますし、高齢者施設に入所すると自由に動ける範囲は限られてきます。訪問歯科サービスを利用することで口腔内がきれいになり歯周病やむし歯の予防はもちろん、誤嚥性肺炎の防止、摂食嚥下障害への対応(うまく飲みこめない・低栄養・脱水等)により高齢者の健康向上にも貢献できます。
歯科医師が訪問歯科を始めたきっかけは「歯科医が経営している歯科クリニックに通っていた患者やその家族からの依頼」がもっとも多くなっており、ほかにも「患者が入院していた医療機関からの紹介・依頼」「在宅医療を行っている医療機関からの紹介・依頼」などとなっています。患者やその家族から在宅での歯科診療をのぞむ声もあり、また実際に訪問歯科診療を受けた患者の9割を超える人たちが「訪問歯科診療を受けて安心できる」と感じています。超高齢社会を背景に、高齢者のニーズは今後も確実に見こめる状況です。
ところがすべての歯科医が訪問歯科診療を実施しているわけではありません。その理由としては、時間の確保がむずかしい、訪問歯科専門の装置や器具の購入にコストがかかる、歯科衛生士の確保が困難、保険請求の手続きが煩雑、体力がないなどがあげられます。訪問歯科診療を開始するにしても、必要な人員確保や機材の調達、時間的制約などに問題があり、訪問歯科サービスが広がらない実情もあるようです。