レビー小体型認知症でも対応が可能な施設特集
パーキンソン症状も見られるレビー小体型認知症は安全な環境での生活が大切
認知症の中でもアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並んで多いのがレビー小体型認知症とよばれる病気です。脳の神経細胞内に異常なタンパク質が溜まることで引き起こされるこの病気は、手足が震え転びやすくなるなどのパーキンソン症状に加え、物忘れ、幻覚による異常行動、人格の変化などの症状が見られます。日常生活における転倒の危険性などが高まることから、安全な環境と適切な認知症ケアが受けられる施設を探すと良いでしょう。
レビー小体型認知症の方の老人ホーム選びは?
レビー小体型認知症は1976年に、日本人医師・小阪憲司氏がレビー小体(たんぱく質がかたまってできた小さな丸い集合体)が大脳皮質にも多数見つかったことを、世界で初めて報告しました。レビー小体自体は、1919年にフランスのトレティアコフにより発見されていましたが、発見されたのは脳幹とよばれる脳の奥深く。それ以後は「レビー小体が蓄積するのは脳幹の部分だけ」という意見が支配的でした。ところがレビー小体が大脳皮質で多数見つかったことにより1996年に「レビー小体型認知症」という病名が決定され、診断基準も発表されました。つまりこの病気は、日本人医師によって最近発見された病気なのです。
この病気を発症すると、初期のうちは就寝中に叫んだり暴れるなどの症状があらわれる「レム睡眠行動障害」や気分の落ちこみや意欲低下、元気がない状態がつづく「うつ状態」、ふらつきやめまい、便秘など体の不調があらわれる「自律神経症状」、筋肉がこわばり、体がうまく動かせなくなる「パーキンソン症状」、そして目の前にないにもかかわらず「子供が部屋に2人いる」や「壁に人の顔が見える」などの幻視や誤認などの症状などがあらわれます。アルツハイマー型認知症の場合は「もの忘れ」が顕著ですが、レビー小体型認知症患者の場合、初期のうちは認知機能の低下が目立ちません。そのため「認知症ではない」と勝手に認識しがちです。レビー小体型認知症の特徴を把握し、異常な行動が目立つようになったら早めに医療機関を受診しましょう。
レビー小体型認知症患者の場合さまざまな症状があらわれるため、それぞれの症状に合わせて適切な対応が必要となります。幻視や誤認の症状がでている場合は、照明を明るくする、カーテンを開けるなどして部屋を明るくするだけでも幻視や誤認が大きく減少します。壁にかかった洋服などを人間だと見間違えることもあるため、できるだけ洋服はたたんでクローゼットやタンスのなかに収納します。
さらに注意したいことは「転倒」です。この病気の患者は視覚障害や認知機能低下、パーキンソン症状などにより、アルツハイマー型認知症の患者よりも転倒しやすいと言われています。段差の解消や手すりの設置、明るい照明、声掛け、部屋のなかの整理整頓、滑り止めマット活用、家電コードの設置場所見直しなどで転倒を防ぐことが重要です。
レビー小体型認知症患者の受け入れが可能な老人ホームの場合、患者の幻視・誤認が起こりにくいような部屋の整理整頓やバリアフリー、手すり設置、照明の強さなどの工夫、パーキンソン症状が出ている患者に対するリハビリや嚥下体操、幻視や誤認に対する的確な対応(頭から否定しないなど)、食事やトイレ、入浴介助等の支援が可能です。
とくにレビー小体型認知症認知症患者は、背後から声をかけられる、服のそでを引っ張るなどの行為でも転倒するケースが。老人ホームの介護・看護スタッフは、レビー小体型認知症に関する知識や患者に適切に対応するための教育を受けています。患者を危険にさらず、また心を傷つけるような言動はとりません。
レビー小体型認知症とは?その原因、症状について
「認知症の種類の割合について」の表をご覧ください。認知症のタイプで一番多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の55%となっています。つぎに多いのは脳血管性認知症の19%、そしてレビー小体型認知症の18%と続きます。決して稀有な病気ではありません。ではつぎにレビー小体型認知症について、くわしくみていきましょう。
アルツハイマー認知症(55%) | |
レビー小体型認知症(18%) | |
脳血管性認知症(19%) | |
その他の認知症(8%) |
レビー小体型認知症の患者の脳内には「レビー小体」とよばれる小さなかたまりが多数存在します。このレビー小体はたんぱく質がかたまってできた小さな円形の物質。大きさは30~50ミクロンと小さいためMRIやCTでもその映像を直接確認することはできません。もちろん人間の目にも見えません。このレビー小体が脳幹や大脳皮質に大量に発生することで脳神経細胞が変性して脱落、やがて死滅。認知機能や神経系の働きが低下していきます。
レビー小体の元をたどると「α―シヌクレイン」とよばれるたんぱく質が中心になっていることが判明していますが、これらのたんぱく質は特殊なものではなく、脳内にもともとある物質です。なぜ特定のたんぱく質が集合し、レビー小体ができるのか? この根本的な疑問、原因はいまだにわかっていません。
このレビー小体が大脳皮質で多く発生すると「レビー小体型認知症」と診断され、脳幹に多くできると「パーキンソン病」に、そして自律神経に多く発生すると「シャイ・ドレーガー症候群(突発性自律神経不全症)」と診断されます。おなじレビー小体が蓄積されて発症する病気であるにもかかわらず、体のどの部位におもにレビー小体が蓄積され、どのような症状がでているかでさまざまな病名がつけられており複雑になっています。一部の専門家では、これらの病気を「レビー小体病」と総称し、全身の病気として考えた方がよいのではないか、と考える方もいます。
レビー小体型認知症は発症する年齢や発症しやすい症状などのより「純粋型」と「通常型」という2つの種類に分類されています。純粋型はパーキンソン症状からはじまり、次第に幻視や妄想、認知機能低下などへ症状が進行する場合はレビー小体型認知症であると診断されます。30~40代の若い世代でも発症する可能性も。「通常型」は高齢者に多く、レビー小体型認知症の典型的な症例がみられます。パーキンソン症状があらわれない方が、全体の約3割います。パーキンソン病患者のなかには、レビー小体型認知症を発症する患者も。それぞれの病気が関連しあっているのです。
それではレビー小体型認知症の症状についてご説明しましょう。前項でも紹介しましたが、この病気を発症すると初期のうちは「幻視・錯視」「妄想」「うつ状態」「自律神経症状」「パーキンソン症状」「レム睡眠行動障害」などの症状が出始めます。病気が進行することにより「認知の変動」や「認知機能の低下」もみられます。認知の変動は、しっかり行動できるときとボンヤリしているときの差が激しくなることを言います。認知機能の低下はアルツハイマー型認知症と同じように、記憶障害や判断力、理解力の低下、見当識障害(今がいつなのかわからない、ここがどこなのかわからない)などの症状を引き起こします。
高齢になるとアルツハイマー型認知症を発症するリスクもアップするため、レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症を同時に発症することも。「母はレビー小体型認知症の患者なのだから、ほかの認知症にはならないだろう」と勝手に決めつけないことです。
レビー小体型認知症患者への適切な対応・介護はどんな方法?
レビー小体型認知症患者にはさまざまな症状がでます。とくに幻覚や幻視、妄想の症状に対しては、介護者も戸惑うことが多いでしょう。「部屋のなかに猫がいる」といるはずのない猫を追い払おうとします。介護者にしてみれば「猫なんかいませんよ」「ちゃんとしてください」と言いたくなりますが、本人にはしっかりと見えています。頭ごなしに説得しようとすると本人にとっては「家族からバカにされている」「信じてもらえない」という気持ちになり、ますます幻視や妄想がひどくなることも。幻覚や誤認に関しては頭から否定せず、本人からよく話しを聞き「それは困ったね」「もしかしたら勘違いってことはない?」と本人の気持ちに寄り添った対応をしましょう。
「レム睡眠行動障害」は睡眠中に大声をだしたり暴れるような症状がみられても、本人は夢のなかのことだと認識しています。無理に起こすと現実と夢とがごちゃまぜになり、さらに混乱、興奮します。この場合は無理に起こさない方が無難。
レビー小体型認知症の患者は「起立性低血圧」を起こしやすくなっています。急に立ち上がるとめまいやふらつきを感じ、場合によっては転倒することも。急に立ち上がらず、できるだけ頭を下げた状態でゆっくりと姿勢を変える配慮が必要です。ほかにも自律神経の障害により、嚥下障害が起きやすくなっています。水分にとろみをつけて飲み込みやすく工夫する、少しづつゆっくり食事を口に運ぶなどの配慮により、むせ込みや窒息、誤嚥性肺炎を防ぎましょう。食後は歯磨きをして、口のなかを清潔にたもつことが誤嚥性肺炎防止に役立ちます。