グループホームの拡充が著しい九州第二の都市

福岡市に次ぐ九州第二の都市であり、また政令指定都市でもある北九州市は、1901年に操業を開始した八幡製鉄所に代表されるように、国内でも大規模な工業地帯としてその名を馳せてきました。
昨今では、北九州工業地帯の圧倒的に迫力のある景観を生かし、“工場萌え”と呼ばれる工場観賞といった取組みが行われるなど、少しユニークな一面も持ち合わせています。
そんな北九州市、増加する高齢者に対応する老ための人ホーム数も多くなっており、その数は福岡市と同等かそれ以上とも言われています。
また種類面でも、介護保険の施設サービスである特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護療養型医療施設はもちろん、有料老人ホームや高齢者住宅、昨今ではサービス付き高齢者向け住宅も増えてきており、さまざまな選択肢から選ぶことができます。
有料老人ホームの費用面に関しては九州全体で見れば相場は少し高めですが、それでも福岡市とはそれほど変わりません。
入居一時金は高くても数百万円で、月額利用料が20万円を超えるところはほとんどないため、どうにもならない程の負担となることはないでしょう。
そもそも北九州市は、高齢者福祉に手厚い市としても有名です。
「北九州市高齢者支援計画」では、「高齢者がいつまでもいきいきとその人らしく、安心して暮らしていける“まちづくり”」を基本理念として、介護予防や生きがいづくり、認知症対策や介護保険サービスなど、158もの事業を進めているのです。
今後は、一人暮らしや認知症の高齢者がさらに増加することを見据え、地域包括ケアシステムの整備に特に注力すると同時に、グループホームの拡充も計画されています。
認知症高齢者の家族の方は、積極的にグループホームの利用を考えてみてはいかがでしょうか。
また北九州市では、機能別応需病院(二次救急)を導入することによって救急医療体制を整えています。
これは、症状別に救急隊員による迅速かつ的確な救急搬送を可能としたシステムで、北九州市独自のもの。
これによって、いわゆる“患者のたらい回し”がなくなり、たとえかかりつけ医のない傷病者でも迅速な対応が可能となっています。
充実した日常生活はもちろん、健康面での安心があるのは、本人にとっても、またその家族にとっても非常に大きなメリットと言えるのではないでしょうか。
高齢者人口は10年で5万人増加
北九州市の総人口はここ30年ほど減少傾向にあります。
1985年時点での総人口は105万6,402人でしたが、2005年には99万3,525人に減少。
さらに10年後の2015年には96万1,286人、2023年には92万9,396年にまで減少しました。この30年間で約10万人近く人口が減っていることになります。
その一方で、65歳以上の高齢者の数は年々増加しており、2005年には22万985人だった高齢者人口が、2023年には29万309人と約7万人も増加しています。
高齢化率も25.2%から31.2%にまで跳ね上がっており、2015年における日本の高齢化率が26.6%であることを考えると、非常に高い数値だといえます。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
総人口の減少と高齢者人口の増加は今後も続く見通しで、2025年には総人口が約90万人にまで減少し、高齢者人口は30万人を超える見込みです。
これにより、高齢化率は33.5%にまで達する見込みで、北九州市に住む人口の約3人に1人が高齢者ということになります。
さらに、2005年時点では75歳以上の高齢者人口が9万9,872人で65歳以上の高齢者人口の内の45.2%を占めていましたが、2023年には15万9,214人へと増加し、高齢者人口の約半数近くを占めるほどになっています。
介護を必要とする可能性の高い75歳以上の高齢者増加による介護施設の不足が懸念視されており、今後も増加傾向が続くと見られている北九州市では早急に対策を講じることが求められています。
介護サービス利用者は2024年には5万人超に
北九州市の要支援・要介護認定者数は2010年時点で4万7,967人でしたが、2024年時点で6万6,613人にまで達しました。
要支援・要介護認定者数は今後も増加していく見込みです。

段階ごとに見ていくと、最も多いのは要介護1認定者で、2024年時点においては1万6,071人、次に多いのが要介護2認定者で1万2,376人、それに要支援1の6,791人、要支援2の9,226人、要介護3の9,640人と続きます。
中でも要支援2認定者数の伸びが著しく、今後は要支援1認定者数を超える見通しです。
介護保険のサービス利用者数も2010年時点で4万486人でしたが、2024年には約1万6,000人増加し、5万6,420人にまで増えました。
今後は制度改正により、予防給付の訪問介護と通所介護が新しい総合事業へと移行する関係で、介護保険のサービス利用者数は次第に減少する見込みです。
介護予防のための「ひまわり太極拳」を開発
北九州市では生活において重要な3つの要素、「運動・栄養・口腔と高齢者」を軸にして介護予防に取り組んでいます。

それぞれの分野においてさまざまな催しが行われており、地域の人々はそれを通じて健康に関する知識を深めています。
「ひまわり太極拳(タイチー)」は北九州市武術太極拳連盟の協力を得て開発された介護予防太極拳です。
太極拳と聞くと身体の不自由な高齢者には難しそうに思えますが、ひまわり太極拳では椅子に座ったままでも行える簡単な動きが取り入れられており、高齢の方でも取り組みやすいものになっています。
筋力向上による転倒予防効果が見込めるほか、太極拳の魅力を知ることで発表会などへの意欲が高まり、生きがいを持つことにも繋がります。
「元気で長生き食卓相談」は各区役所の保健福祉課にて行われており、65歳以上の方を対象に生活習慣病予防や介護予防などの食生活に関する相談を受け付けています。
管理栄養士が食生活の栄養バランスなどについて的確なアドバイスをしてくれるので、栄養の偏りが気がかりな高齢者などに広く活用されています。
「健口ストレッチ講座」は歯科衛生士による口腔機能向上に関する講話や実技指導を通じてお口の健康を守るとともに、高齢者の生きがいづくりを目的として行われています。
健口ストレッチ講座では食事に関する口の働きだけでなく、会話や笑顔に関する働きについても学ぶことで、心と身体の健康を守ります。
健康な歯を守るための口腔ケアや入れ歯の上手な使い方なども学べるため、高齢者の方にはぜひ参加してもらいたい講座です。
「いのちをつなぐネットワーク担当係長」を配置して地域の見守りを強化
北九州市では団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年をめどに、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
地域包括ケアシステムとは医療・予防・介護・住まい・生活支援が一体的に提供され、重度の要介護状態になった方が住み慣れた地域で人生をまっとうできるようにサポートする仕組みのことです。

地域包括ケアシステムの中では、社会福祉協議会と地域包括支援センターから保健師や主任ケアマネージャー、社会福祉士、そして地域支援コーディネーターの協力を得ながら、協議体と地域ケア会議で交わされる協議を軸に地域づくりを推進しています。
「まちづくり協議会」や「地域ケア個別会議」といった日常生活圏域レベルの協議から、区レベル・市レベルと協議の段階を上げることで、より市民に近い視点から地域の問題に取り組んでいます。
地域のネットワークとしては、医療機関や介護施設など高齢者向けサービスに加え、老人クラブ・ボランティア・NPOなどの地域団体と連携。
様々な視点から地域に住む高齢者や障がい者、子どもたちの見守り・支援を行っています。
各機関の連携を図るコーディネーター役としては「いのちをつなぐネットワーク担当係長」が従事しており、地域のネットワーク強化に尽力しています。
地域包括ケアシステムの中心である地域包括支援センターでは、認知症や高齢者虐待への対応といった権利擁護事業と、介護支援専門員のネットワーク構築や日常的な個別指導・相談などを含めた包括的・継続的ケアマネジメント支援事業の2つが行われています。
また、地域包括支援センターは人々の相談窓口としての機能も果たしており、介護保険や医療・福祉に関する相談先として人々に活用されています。
北九州市「保健福祉オンブズパーソン」とは?
北九州市では保健福祉サービスの質を維持するとともに利用者の権利と利益を守るため、利用者および利用希望者からの苦情への対応機関として「保健福祉オンブズパーソン」を設けています。

保健福祉オンブズパーソンは利用者から受けた苦情について事実関係の把握をするための調査や報告を市に求め、その結果から検討・審理を行います。
そして、それらに基づいて作成された意見書を苦情申立人と市の担当部局へ送り、是正などの措置が必要な場合には市への勧告を行うことで問題解決に取り組みます。
保健福祉オンブズパーソンは高潔な人格と社会的信望を持ち、保険・福祉や法律に関する知識をもった少数の識者で構成されています。
社会福祉士や弁護士、大学教授など異なる分野から選りすぐりの人材を集めているため、より多角的な視点から問題解決の方法を模索することができます。
苦情申し立ては市や民間事業者が行う保健福祉サービスの利用者および利用希望者とその配偶者や親族にしか行うことができません。
事実関係の調査が困難になるため、匿名での申し立てができない点にも注意が必要です。
申し立てできる相談内容としては保健福祉サービスの申請・利用・決定に関する説明に問題がある場合や、民間事業者が行う保健福祉サービスに問題がある場合などが挙げられます。
基本的に保健福祉サービスに関する問題はすべて受け付けてもらえますが、裁判所に訴え中のものや苦情発生の原因となる出来事から1年以上経過しているものなど、条件によっては受け付けてもらえない場合もあるので事前に確認しておくべきでしょう。