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山形コホート研究「異性への関心」の有無が男性の寿命に影響する可能性を示唆

「異性への関心が薄れた男性は、死亡リスクが高くなる可能性がある」
「山形県コホート研究」(※)をもとに、山形大学医学部看護学科の櫻田香教授の研究チームが、死亡リスクについてある興味深い研究結果をまとめた。
研究結果に対して慎重でありながらも、異性への関心の有無が免疫などに影響する可能性を櫻田教授は示唆する。
研究の解説と高齢者へのインタビューを通じて、異性への関心の作用について探る。

※コホート研究とは長期間にわたり特定のグループを追跡して、リスク要因などの関連性を調べる疫学的な研究の手法の一つ。「山形県コホート研究」では、山形県内の特定健診受診者2万人が参加し、体質、生活習慣、健診データなどを多角的に分析している

監修/みんなの介護

「笑い」を研究する過程で見つけた意外なテーマ

「山形県コホート研究」とは

1979年、山形県舟形町で行われた糖尿病健診をきっかけに、山形大学医学部の分子疫学研究が山形県全域における研究対象となり得る集団の形成に成功した。

「山形県コホート研究」の第一歩だ。

研究活動は順調に拡大を続け、文部科学省が推進する21世紀COEプログラムをはじめとした大型プロジェクトの支援を受けてきた。2020年には、山形県内において研究の協力者が2万人を超え、大規模な疫学調査となっている。

「山形県コホート研究」の対象項目は多岐にわたる。血液データ、血圧、BMI、内服薬といった医学的なデータだけでなく、睡眠時間や社会参加の頻度、食事内容、抑うつ(K6※)などの生活全般にわたる質問事項もある。

研究の目的は、生活習慣病につながる体質と生活習慣の組み合わせを明らかにし、個人にあった健康増進、病気の予防の提案である。さまざまな診療科と横断的な協力体制を敷き、生活習慣病、がん、脳卒中、心臓病、認知症の発症のしくみなどの研究を行っている。

櫻田先生は、2018年ごろから「山形県コホート研究」に取り組むようになった。

※うつ病や不安障害などの精神疾患の可能性がある人を見つけるための調査手法

発見は偶然だった

異性への関心と寿命についての研究結果をまとめた櫻田先生の論文「日本人一般住民における異性への関心の欠如と全死亡率との関連(Association between lack of sexual interest and all-cause mortality in a Japanese general population)」は「偶然が生んだ研究結果」だと櫻田先生は言う。

櫻田先生のライフワークである「よく笑う人は長生きなのか」という研究が“派生”したものだった。

櫻田

「私の専門は『笑いが寿命に与える影響』についての研究です。『山形県コホート研究』の質問事項に『笑う機会がどのくらいありますか?』という項目があり、そのデータ解析をもとに『声を出して笑う機会が少ない人は、週に1回以上声を出して笑う人に比べて死亡リスクが約1.6倍から2倍になる』という内容の論文を書きました」

【笑う頻度と全死亡についてのグラフ】

グラフ提供:櫻田先生

櫻田

「データの宝庫ともいえる『山形県コホート研究』を活用して、笑いと死亡リスクの関連性について研究を進めていきたいと考えていました。

あるとき、研究者と雑談していたら『年齢を重ねても異性への関心は大切だよね』という話題に及んだんです。『……そういえば、質問事項のひとつに異性の関心についての質問事項があったな』と思い出し、『異性への関心』に関する回答データの解析を試みました。

すると、男性にだけ異性への関心と死亡リスクの相関性を示すデータが見られたのです。ですから、今回の発見は『偶然から生まれた』と言っても過言ではないんです」

男性だけに見られた「異性への関心と長生きの相関性」

 櫻田先生は「異性への関心」についてのデータ解析を試みる段階で、男性には「異性への関心と長生き」に相関性が見られることを予測していたという。

なぜ男性だけに相関性があると考えていたのだろうか。

櫻田

「うつ病の診断基準には『興味を抱くものがあるか、否か』という項目があります。興味を抱くものがないうつ病の患者のほうが、“寿命”が長くない傾向にあることが多くの研究で言及されています。

異性に限らず、興味の対象の有無が似た影響を与えると考えていたんです」

女性は男性に比べると抑うつを感じる割合が高いが、女性は抑うつを自覚したとしても、それほど寿命には影響しないという。

「夫に先立たれた妻は特段早死にしないが、妻に先立たれた夫は早死にをする」という興味深い論文もあるようだ。

下図グラフの実線は、「異性への関心はありますか」という質問に「ある」と答えた方々だが、「ない」と答えた方に比べて、寿命が長いことが分かる。

【異性への関心の有無と全死亡についてのグラフ】

グラフ提供:櫻田先生

櫻田

年齢や病気、生活習慣病の有無などを統計学的に調整しても、男性にのみ異性への関心の有無が死亡リスクに影響している可能性があることがわかりました。

『データ』上の話ではありますが、興味深い結果だと思います」

異性への関心はポジティブな心理的要因か

異性への関心の作用

友人や近所の方などの付き合いといったソーシャルサポートがないと寿命が短くなるということも、「山形県コホート研究」によって明らかにされている。

櫻田

「異性への関心も、ソーシャルな支えと共通するポジティブな心理的な要素であると考えられます。

ただし、異性への関心の有無がどれほどの影響を寿命に与えるかといったところまではわかっていません」

櫻田先生の研究結果によれば、異性に関心のない方の中には喫煙者や糖尿病を患っている方も多いという。

今回の研究では喫煙や糖尿病といった因子を調整しているが、背景には生活習慣の乱れなどが考えられ、それらも寿命を縮める多くの要因になっている可能性もあるそうだ。

櫻田

「生き甲斐などのポジティブな心理的要因は、炎症や内分泌、免疫に良い影響を与えると言われています。

たとえば、私の専門でもありますが、人は笑うとNK細胞(※)が増えて、免疫力が上がるという研究結果があります。 落語を見てたくさん笑ったあとの食事では、血糖が上がりにくいというデータもあります。異性への関心がポジティブな心理的要因であると考えられる可能性はあります」

ただし、異性への関心についての質問事項以外の要因についての懸念は拭えないと先生は語る。特に寿命に大きく関わりがあるとされる「うつ病の診断」や「内服薬」に関するデータはなく、性的志向により「異性に関心」という問いに該当しなかった方もいることを想定すべきだろう。

※NK細胞:自然免疫の1つ

「異性への関心と寿命」についての今後の研究について、櫻田先生はこう語る。

櫻田

「今回の論文は、これまでに発表した論文の中で最も反響があっただけでなく、多くの方々が関心を持ってくれた研究です。

ただし、私のライフワークは『笑い』に関する研究です。 山形県コホート研究には、我が国にとっての課題となる高齢社会に役立つような貴重なデータや研究がたくさんあります。

たとえば、良く笑って長生きをしている人に特殊な遺伝子があるのならば、そのような遺伝的な素因をふまえてあまり笑わない人が良く笑って長生きができるように働きかけることができる可能性もあります。 将来的には、そのような研究を進めていきたいので、「異性への関心」についての研究は一旦、ここでお休みですね。 もちろん今回の研究結果から『もっとこういうことを研究してみよう』と思ってくれる方がいてくれたらうれしいです』

櫻田先生は、高齢社会をより良いものにするためには何が必要だと考えているのだろうか。

櫻田

「誰もがポジティブに生きることだと思います。一般的に、日本人を含めたアジア人はネガティブな思考を持ちやすい民族という研究結果があります。特に日本人は長生きをしないと“損”をしたように思う方が多い。

それならば、日々の小さな幸せを噛み締めてポジティブに生きることが大切なのではないかと思います。どんなに些細なことでも喜ぶことができるようになれば、ポジティブに生きていけるのではないでしょうか」

シニアの皆様のお声

ケース1「シニアテニスサークル」

今回の研究結果をシニアの男女はどのように受け取るのだろうか。

60歳以上の男女が所属しているあるテニスサークルのメンバーに対し、「異性への関心」の有無についてのアンケート調査を行ったところ、所属する10人全員が「異性への関心はある」と回答。

60代後半で離婚歴のある男性は現在、遠距離恋愛をしており、試合のたびに“彼女”を呼び寄せるそうだ。「自身の活躍を見せられるように、仲間たちと戦略を練っている」とも答えてくれた。

サークルに所属する60代前半の女性は今回の研究結果に対して「サークルの男性陣は同世代に比べて、明らかに元気ですね。同級会で会う男性たちよりも若々しく、話題も豊富です」と回答してくれた。

ケース2「介護経験者」

 家族の介護を経験したある女性は、リハビリの現場で研究結果を“裏付ける”光景を目にした。

「いずれの患者にも異性の理学療法士がリハビリに当たっていたんです。『意図的』とも思える光景でしたが、患者は笑顔で汗を流し、リハビリに励んでいるようでした。ちなみに私の家族も異性の理学療法士がついてくれたおかげか、病院でのリハビリにはかなり頑張ってくれたので、感謝しています(笑)」。

ケース3「介護施設の職員」

 介護施設で働く職員はどのように考えているのだろうか。ある特養で働く女性介護職員が回答してくれた。

「コミュニケーション能力の高い男性利用者は、気分転換を図ることが上手いのか、うつうつとしている時間が少なく感じます。男性は女性に比べて『褒めて、おだてて、持ち上げて』が大切なのかもしれません」

いずれのケースにおいても、興味の対象があることでポジティブな気持ちを持ち続けて生きることの大切さを改めて認識できる回答となった。

これからも櫻田先生の研究に注目していきたい。

プロフィール

山形大学医学部看護学科
教授
櫻田 香(さくらだ かおり)氏

山梨県出身。山形大学大学院医学系研究科修了。日本脳神経外科学会専門医。

編集後記

櫻田先生は「異性への関心」の研究結果を“話のネタ”にしてもらえれば、と語ってくれた。

「笑ってくれた方々の長生きに繋がればうれしい」

櫻田先生は、今回のインタビューをそう締めくくった。

本記事の内容は、2023年3月取材時点の情報をもとにしています

文:岡崎杏里

【第90回】「シニア」の外出促進で街も人も元気に 見守りタグ」を活用したポイントラリーで「健康増進」と「来店誘導」
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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