鈴木亘「「若者が寄付しているから、あなたの年金は6倍になっているんです」と、高齢者に対してきちんと理解してもらうべき」

これまで鈴木亘氏に、社会保障の基本的な知識や海外で行われた社会保障改革の取り組みを伺いながら、我が国における改革案を伺った。「政治家や官僚がリスクをとれるようにならないと社会保障改革は進まない」と言い切る氏の言葉は、まさに、自らリスクをとって大阪市の改革をやり遂げた経験に裏づけされたものである。最終回となる後編では、国民の一人ひとりが身につけるべきコスト感覚について語ってもらった。

取材・文/みんなの介護

本来のコストがわからなければ、国の制度の裏に莫大な税金がつぎ込まれていることを実感できない

みんなの介護 中編「政治家や官僚がリスクを取れるようにならないと社会保障改革は進まない」で、アメリカの共済年金などでは、年金の投資先を加入者が自ら選ぶと伺いました。例えば、盲腸になると数百万もかかるアメリカの医療費と比べると、日本は健康保険一つとってみても恵まれていると思うんです。

鈴木 利用者から見れば安く医療を受けられて恵まれているわけですが、その裏では実際に費用がかかっているんです。借金として先送りしているから恵まれているように見えるだけで、いずれ、そのツケは支払わされます。

アメリカは、加入する保険を自分でチョイスできます。「保険料が高くても、なんでも保証してくれる保険がいい」と言う人がいれば、「最低限の保証でいいから保険料は低いほうがいい」と言う人もいます。アメリカでは、どちらがいいかを国民が自分で考え、選べるんですよ。その分、コスト感覚が正常で、ある意味、「ゆでガエル」の日本より優れている面があります。

みんなの介護 ということは、諸外国の人たちと比べると、日本人はブラックボックスに置かれているような状態なのですか?

鈴木 まさに、ブラックボックスにいる状況です。特に、年金に関してはブラックホールですね。例えばアメリカの場合、カリフォルニア州の公務員の共済年金や、私学共済年金などでは、投資先は自分で選択するんです。国債で安全運用してほしいとか、株でやってほしいとか、一応は選べるんですよ。そして随時、「収益データが出ました」「あなたの年金は将来減らされる可能性があります」などと、レポートが届きます。アメリカは自己責任社会ですからね。

みんなの介護 日本の健康保険とは違いますね。

鈴木 これが何を意味するかというと、アメリカの国民はよく勉強するし、何が自分にとって一番いいかを必死に考えるということです。そして、医療費の高さがわかっている。手術に数百万かかるなら、“自分の数か月分もの給料がかかる手術なんだ”と認識できるということです。例えば、3回も心筋梗塞になってしまったら、“これは破産するぞ”と危機感を持つわけですね。だから、どの保険に加入しようかと必死に考えるようになります。

日本の場合、自己負担を除いた金額は、保険料以外に国が大量の税金をつぎ込んで負担しています。本当は手術に数百万もかかっているのに、実際のところ数万円しか払わなくていいというのは、保険と国が肩代わりしているからです。でも、自分で保険を選んでいないから、当人にはそのありがたみがなかなかわからないですよね。

みんなの介護 海外の健康保険事情を聞くと、日本の制度のありがたみがわかるというか。

鈴木 我々日本人は、はっきり言って医療費のコスト感覚をほとんど持っていないでしょう?高齢者の自己負担額は1割だし。1割どころか、入院や手術には高額療養費制度があるので、高齢者は何百万円もかかる手術をしても、だいたい月4万円を超える自己負担を払わなくていいんです。というか、4万円を超えれば、あとはその月にいくら医療費がかっても、まったく追加自己負担が発生しません。その分は費用ゼロと同じわけです。それじゃコスト感覚がなくなるのも当たり前ですよね。

誰かが払ってくれている保険料と税金によって、恩恵を受けていることを実感するということは、とても重要なことです。保育料でも同じことが言えます。例えば、親たちが支払っている保育料は平均でが毎月2万円ですが、本来はそれだけじゃ済まないんです。ちゃんとコストとサービスの対価を考えればわかることですが。こどもを保育園に預けると、本当は月15万~20万円くらいかかるところを、補助金として国と自治体が10万円以上払っているから、2万円の保育料で済んでいるんです。だから、まずは15万~20万円かかっていることを知らせないと。すると、“本来は15万かかっている保育コストだけれども、国と自治体が、10万円以上をサービスしてくれているんだ”と親がわかるわけです。

今は、なんだかわかんないけれども、「平均2万円でいいです」というだけになっている。その裏には、莫大なお金がつぎ込まれているんですよ。それがわからなければ、「なんだ、2万円のサービスだし」「これは国がやっている制度でしょ。だったら私、払いませんよ」なんていうように、軽々しく滞納する人が出てくるわけです。

「賢人論。」第22回(後編)鈴木亘さん「“今後の保険料が減る”と予想されたら、それが年金額に反映されるような、先物的な制度を社会保障に取り入れるのもひとつの手」

国の財政を含めて、こういった事実を高齢者に知ってもらえば「年金は半額でいいわよ」と言う人も出てくるんじゃないかと思います

みんなの介護 「国が払って当然だろ」と、権利ばかりを主張していては…結局のところ、誰かが払ったお金が公的サービスに投入されていますからね。

鈴木 医療費をたくさん使っている人に対しては「あなたはリスクの高い人物です。だから、保険料を倍に値上げします」というようなお知らせが送られてもいいのではないかと思います。まずは自分の財布から払うところを実感できなければ、“こんなに医療費がかかっているけれど、国が払ってくれているんだ”なんて、自覚しにくいでしょう。

問題は、保険を使う本人がコストをわかっていないことです。実際、今の制度がもし破たんすれば、社会保障制度の恩恵を受けていた国民の保険料や自己負担は何倍にも膨らんでしまいます。そんなことになってしまうんだったら、健康のために“運動でもしようかしら”とか、“酒も飲み過ぎないようにしようか”って思うでしょう。破たんする可能性を、きちんと身近に感じさせなければなりません。

みんなの介護 健康を維持しなければ、結局は医療費が高くついてしまいます。

鈴木 そうですよね。年金も、「あなたが払った保険料に見合った年金はこれです」と最初に提示しておいて、「若者たちが寄付しているから、あなたの年金は6倍になっているんです」といった感じにしたほうがいいと思うんですよ。「あなたがこれまでに払ってきた金額に見合った年金は1万3000円です」とかね。でも、「若者たちが無理して払ってくれているから、8万円になっているんです」ってね。

国の財政も含めて、こういった事実を高齢者に知ってもらえば、「俺たちは損したくない!」と意固地になるのではなく、余裕のある人は「これまずいんじゃないの、いくらなんでも」とか「年金が余って貯蓄に回しているんだけども、そんな状況だったら、私の年金は半額でいいわよ」という人も出てくるんじゃないかと思います。

みんなの介護 とは言っても、高齢者の人たちにそう思ってもらうのは難しいんじゃないかと…。

鈴木 簡単にはいかないでしょうけどね。日本の財政破綻は高い確率で起こり得るんだけれど、それが10年後なのか20年後なのかはわからない。ひょっとしたら今の高齢者たちはこのまま逃げ切れるかもしれないし、逃げ切れないかもしれない。リアリティーを感じないので、なかなか説得としては難しいとは思います。財政破綻したとしても、どれぐらい生活が苦しくなるかは想像できないでしょうし。

みんなの介護 だから自分の事として感じられないんですね。

鈴木 感じられないと思いますよ。高齢者を説得するためにも、まずは事実を公表しないとね。それから、私が考えるもう一つの手は、将来の財政状況が今の利害に反映される仕組みを、社会保障制度に組み込んでしまうというものです。例えば、金融商品の先物のような、将来の年金財政の市場予想が、今の年金額に跳ね返ってくる方法を取り入れたらいいんではないかと。

※先物とは……先物とは、将来の値段を予想された物のこと。値段が上がると予想できればその商品を購入する契約を結び、一定の期間後に商品を売って利益を得ることができる。

どういうことかと言うと、みんなが“将来の日本の財政が破綻する”“今後の保険料が減る”と市場で予想していたら、それと連動して今の年金額を減らすんです。こういった仕組みにしてしまうのは、一つの手だと思います。

「賢人論。」第22回(後編)鈴木亘さん「今の高齢者たちはリスクを背負っていない。GPIFが運用損を出したならその分だけ年金を減らすような仕組みにすべき」

政治家がバラマキをすると、今の年金額が減る仕組みにしてしまったほうがいい

みんなの介護 今の年金額を減らしてしまうんですか?

鈴木 例えば政治家が選挙目当てに「バラマキします」と言ったときに、“ますますやばいな”と市場が予想するわけです。財政に連動した先物の価格が今の年金額に反映されるようにしておけば、高齢者たちが受け取る今の年金額が自動的に減りますよね。自分の年金が減ってしまうんだから、当然、年金受給者は「政治家は何をやっているんだ!」と怒りますよ。「将来のためにきちんと年金改革をやれ!」とね。

みんなの介護 それは怒ると思います…。

鈴木 今のように、低所得高齢者に対する3万円の給付のような選挙対策をやると、今の仕組みでは、高齢者たちにとってウェルカムなわけです。でも、バラマキをやった結果、市場が“年金が破綻しそうだ”と思ったら、自分の今の年金が減る仕組みにしておくと、本来の選挙対策とは逆の効果になるでしょ。

みんなの介護 税金の使い方に対して、国民がシビアになりそうですね。

鈴木 また、日本の公的年金の運用はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が担っているのですが、今の政権は保有する株式の投資を増やした結果、かなりの運用損失を出しています。損を出したら、今の高齢者たちの年金額を今すぐ直接減らす仕組みにしておけばよい。現状では、いくら損を出しても、今の高齢者たちにとっては全然関係のないことなので、運用損に無関心です。高齢者は、もらえる年金の金額が既に決まっていますからね。

みんなの介護 その失敗のツケを払うのは、やっぱり若者たちになるんですか?

鈴木 そうなんですよ。つまり、今の高齢者たちはリスクを背負っていないんです。賭けをやるんだったら、みんな平等に同罪ということで。2015年度は5兆円も積立金が減ったんですが、その後の株式相場の低迷、円高を考えると、今年もまた何兆円か損失が出ると思います。それなら、減った分だけ年金の金額を減らさせてください、という仕組みにすべきです。

実はこれは、カナダ(CPPIB;公的年金運用機関)がやっていますから、日本もやったらいいんですよ。他国にできて、日本にできないなんていうことはないでしょう。日本でもできるようになれば、つまりは、今の自分の年金額に影響があることですから、国民のチェックも厳しくなるでしょう。とにかく、まずは、高齢者を説得するためにも、国が財政状況の真実を公表するべきですけどね。これは、必ずやってくれると信じたいところです。

撮影:公家勇人

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賢人論。(けんじんろん)は、「みんなの介護」がお送りする特別インタビュー企画です。様々な業界の第一線で活躍する“賢人”の皆さんに、介護業界の現場を取り巻く問題、将来の展望について、また自身の介護経験についてなど、介護にまつわるあれこれについて、自身の思いを忌憚なく語ってもらいます。