上山氏は小池百合子氏の東京都知事就任の直後から、“特別顧問”として情報公開や各事業の費用対効果を見直す「見える化改革」などを主導。さまざまな行財政改革に取り組んできた。そこで上山氏に、これまでの都政改革の中で見えてきた介護業界の問題点と解決策についての考えを聞いてみよう。
取材・文/ボブ内藤 撮影/小林浩一
介護職員は介護のプロであれば良い。事務のプロではありませんので
みんなの介護 第6期東京都高齢者保険福祉計画の推計によると、2017年度で既に介護職員の数が需要に対して約1万5千人も不足。この不足が2020年度には約2万3千人、2025年度には約3万6千人にもなると言われています。そのような状況にもかかわらず、介護職員の離職率は2015年の時点で15.7%(2015年度介護労働実態調査)。就業3年未満の離職者が7割以上を占めています。なぜ、このようなことが起きているのでしょう。
上山 介護職員の離職の理由は人によってさまざまですが、この問題を語るときに必ず話に出されるのが「賃金が低い」「仕事がキツい」ということですね。しかし、サービス業の女性のデータと比べてみても決して低賃金ではない。仕事のつらさもやりがいとの相関関係なので風評被害があるように思います。
私は、介護の仕事の厳しい面ばかりを強調するのは若い人たちに間違ったイメージを与えるのではないかと危惧しています。人を助けるやりがいのある仕事ですから。
もちろん、賃金水準を上げる努力はするべきです。でも全体の水準を上げるよりも、勤続年数や取得資格などを考慮してインセンティブを与えるなど、人事と評価の制度を納得のいくものにする、つまり、人事システムの整備が必要だと思います。
あと、業務の効率化。介護施設では役所に提出しなければならない書類が膨大にあります。これらも様式を簡素化したりIT技術を使ってスマホやパソコンなどで簡単に書類を作成できるようにするなど、事務仕事の手間はできるだけ軽減すべきでしょう。介護職員は介護のプロであれば良く、事務のプロではありませんし。
介護施設への補助金は予算の都合上、あまり積極的に宣伝していない
みんなの介護 介護事業者は小規模なものが多く、就業人数19人以下の事業所が半数を占めているそうです(2015年度介護労働実態調査)。そうなると、人事制度を見直すと言ってもそういう作業が得意なスタッフもいないのでは?
上山 そこで、国や東京都は介護施設に人材コンサルタントを派遣する制度を設けたり、介護福祉士の資格取得のために補助金や助成金を用意しています。しかし制度そのものがあまり知らされていないのか、充分に利用されていない。
あと、お役所というのは「手上げ方式」といって、申請をしたところにはお金をおろすけれども、そうでないところには何も連絡しないのが基本です。そもそも全ての事業所が申請してしまうと予算が足りなくなってしまうので制度をあまり積極的に宣伝しない。
しかし東京都は、小池都政になってからは全施設に対して「人材コンサルティングを派遣しますので、給与テーブルを見直しませんか?」と積極的に呼びかけていく方針に変えました。
みんなの介護 事業所が小さいことが問題ならば、合併させて大きな組織に作り替えていくという方法もありますね?
上山 それが一番効率的です。1970年代までは役所がいろいろな業界で小さな事業所をどんどん合併させた。そこに役所の人が天下りして音頭をとっていた。
しかし、そういうやり方は今の時代には合いません。経営者もオーナーでいたい人が多い。むしろ共同組合組織を作って、そこでスタッフ研修などを一括して行うという方法のほうが馴染みやすいでしょう。

介護付き旅行ツアーとか富裕層向け介護サービスがもっと出てきて良い
みんなの介護 行政機関と同じように、介護事業にも経営的な考えは必要だと思いますか?
上山 もちろんです。しかし中には「介護は福祉事業だから赤字になるのは仕方がない」とか「補助金の範囲内でまわしていけば良い」といった考え方もある。これではやがて事業は破綻するでしょう。
そういう現場では、精神主義がまかり通っている。職場環境が劣悪でも「介護は神聖な仕事なんだから、奉仕の精神で働きなさい」とスタッフに無理をさせる。一方で国に対しては「赤字で大変ですから、もっと補助金をください」と泣きつく。二枚舌ですね。
みんなの介護 あともうひとつ気になるのが、平等主義の良し悪し。介護施設にはいろいろな層のサービスがあって良いと上山さんはお考えですか?
上山 はい。サービス産業は何でも、高レベルのものから一般的なものまで裾野が広がる方が良い。その方がサービスの質を保っていけます。
例えばホテル業。海外の要人を招くことができる一流ホテルもあれば、庶民が気軽に利用できるもの、安い民泊等さまざまなレベルのものがある。そして、高価なものから安価なものまでそれらを一手に手掛けているホテルチェーンほど経営効率は上がります。
だから看護師常駐型の高齢者専門マンションとか、介護付き旅行のツアーとか、富裕層向けの介護サービスはもっと市場に出てきて良い。そこで稼いだお金を一般施設の赤字の補填にまわせば良いのです。まさに一石二鳥です。
「介護は家族がやるもの」という考えは捨てた方が良い
みんなの介護 かつて上山さんが民間企業の手法で行政評価を行ったとき、「神聖な役所に金儲けの理屈を持ち込むな」という抵抗があったように、介護の現場にも「金儲け」に対する拒否反応があるような気がします。
上山 「2025年度には約3万6千人の介護職員が不足する」という推計を見るまでもなく、今のままでは立ち行かないのが現実なんだから、変えるべきところは変えていかねばなりません。
それから事業者の変化とは別に、介護を受ける側の人も、サービスを受けるリテラシーを身につける必要があるでしょう。
以前、新潟市の改革の中で、市の在宅介護の利用率が全国他都市よりも低いのに気づきました。分析してみると、親に介護が必要になっても、子どもが近所の世間体を気にしてヘルパーを家に入れることを好まない傾向があった。ギリギリまでヘルパーや通所施設に頼らず、家族だけで介護をして、弱ってから施設に入れる。しかし、本当はもっと早くからサポートを得た方が弱らないのです。
これに対して、関西などでは考え方がドライで現実的です。「親の介護は家族がやるべき」という固定観念がなく、ヘルパーを呼ぶのに心理的抵抗もない。こうした発想は行政への依存心が高い感じもするけれど、結局、家族の負担が低下するし、重症化も防げる。そして行政コストも最終的には安くあがる。
もっとも、タクシーの代わりに救急車を呼ぶみたいに何でもヘルパーに頼られると困るのですが。
みんなの介護 介護を利用する側が遠慮や気兼ねをすることなく、かつ節度をもって介護を利用するリテラシーが必要なのですね?
上山 その通りです。現在、日本全国で医療と介護の連携が進み、地域が包括的に住民の健康をサポートする体制が作られつつあります。予防医療に力を入れて、要介護になる人を減らす努力もこれからは続けていくべきだと思いますね。

