片山さつき「日本が、この超高齢社会をどう乗り越えていくのか。そこには人類の期待がかかっているんです」

前編「両親、義父母の死をきっかけに「未病」への理解の重要性を痛感した」では、自身の介護経験についても語ってもらったが、中編となる今回は、介護現場の業務の合理化を図るための対策について言及。その答えはICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)、そしてIoHH(インターネット・オブ・ヒューマンヘルスケア)にあるとのこと。さて、その具体策とは?

取材・文/みんなの介護

この現代社会で、介護にICTの技術を活用しないことがおかしい

みんなの介護 前編「特養の入居待ちは大きな問題。厚生労働行政が改善に尽くさなければ」では、特養の運営における現状の問題点を指摘していただきました。その問題を解決するために重要なこととして、ICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)の活用を挙げていただきました。

片山 この現代社会でICTの技術を活用しないことがおかしいと思いませんか?

みんなの介護 以前の「賢人論。」で、ちきりんさんが「個別に自動化できる作業は、まだいくらでもあるはず」とおっしゃっていました。それは、介護にも通ずるところですね。

片山 これはお年寄りだけじゃなく、子どもにも使える技術ですが、室内にセンサーをつけることで誰が、どのように動いたかということがわかる技術があります。これを介護施設に導入するだけで、見回りの業務が相当楽になりますよね。当然、人材不足解消の一手にもつながるはずです。

あとは、着ているだけで体の状態がわかるウェアラブルな機器の導入もそう。特養なんかは、入居者が着る服も同じものになりますよね。その服や、またスリッパなんかにウェアラブル・デバイスを付けておくだけで歩行状態から要注意かどうかがすぐにわかる。これもまた、問題解決の一手になるでしょう?

みんなの介護 おっしゃる通りです。

片山 そうした技術を活用して、効率化を図って、特別養護老人ホームをちゃんと運用していくこと。年金受給者でも費用面で不安を感じることなく特養に入居できるようにする、入居待ちも解消させる。それが厚生労働行政というものですよ。

そもそもですが、今この瞬間、都道府県別でどこの特養がどのくらいの入居率で、空いているっていうデータを、厚生省が持っていないんですよ。いつも事後的で、そのことも問題ではありますよね。

みんなの介護 介護を統括する厚生労働省が全体の数字を把握していないというのは、やはり問題ですね。

片山 特養は、公的な援助を受けた社会福祉法人が運営しているわけですから、その管理ができていないというのは大問題ですよ。空床があることへの罰則があるんじゃないか?とか不安がっている事業者もいるみたいですね。でも、そんなものはないから、「とにかく待機者数が大変なことになってるんだから、どういう状況になっているのか提出しなさい」と言わなければ。

ICTの活用なんかは、導入する施設が増えるだけコストも安くできますし、今後、一般化するのにもそんなに時間はかからないでしょう。やれるんだから、とにかくやれば良いんですよ。

「賢人論。」第10回(中編)片山さつきさんは「こんなにフラストレーションがたまった社会はあり得ない。責任ある政治として、この状態をつくってはいけないですよね」と語る

この超高齢社会をどう乗り越えていくのかは、人類の未来がかかっていると言っても過言ではない

みんなの介護 そうしたICTの技術を活用することで未病の状態をいち早く察知することができ、結果として健康寿命の延伸につなげられる。そうした内容を、片山さんの著書「未病革命2030」で具体的に理解できました。

片山 先日も、川崎で社会福祉法人として介護施設を運営されている事業者さんが「未病革命を読んで、ぜひお会いしたい」と仰ってくださいました。お会いしたときの話では、「今の社会の体制は、老人ホーム業者や社福を運営している人が、利用者さんが来て良かったと喜べる状態を超えているんですよ。これで地震でも起きたら、全員見殺しにするしかありません」と。それを改善するための、ICTの活用なんです。

みんなの介護 非常事態というか、異常事態というか…ですね。

片山 「未病革命2030」は、安倍総理にもお渡しして、ざっと読んではいただいたんですよ。そうしたら、「すごく分かりやすい」「これがリアルなんだね」とご理解していただけましたよ。

フラストレーションをもった、どこか体に異常を感じている人の人口の比率が、一国の中で大きくなりすぎているのが現状です。そんなフラストレーションが溜まった社会はあり得ないですし、やはり責任ある政治としてこの状態を作ってはいけないですよね。

みんなの介護 そもそも、これだけ高齢者の割合が大きな人口構成の国なんて、今まで地球上に存在したことがないですね。

片山 だから、日本がこの状況をどのようにしてクリアしていくのかということには、世界中の人類の期待がかかっているんです。先日も議題に上がりました。長生きの安心な国を作ろうとしたのに、長生きしたらみんな「長生きリスク」とか「長生き不安」とか言い出している。長生きすることにばかりに気を取られて、なんでもいいから寿命を延ばそうということにとらわれた結果ですよ、現状は。

医学者で、良心的な人はみんなそう思っていますよ。製薬会社ですら、やり過ぎたかなと思っている。だから今こそ、健康に長生きするということ、「ピンピンコロリ」というのはどういうことなのか?どうすれば、そこに持っていけるのか?と、真剣に考えなければいけないんです。

「賢人論。」第10回(中編)片山さつきさんは「これからの時代はパーソナルヘルスデータが重要視される。と同時に生産年齢事項の定義を引き上げる必要性がある」と語る

今こそIoHH(インターネット・オブ・ヒューマンヘルスケア)を取り入れるべき

みんなの介護 健康で長生きが、確かに望ましい生き方ですよね。そうすると、65歳を過ぎても元気に働ける方が増えそうです。

片山 生産年齢人口が減るのは自明の理ですね。ですから、どう考えても日本は成長できないのはわかっているわけですが、成長すると言った我々の政権が採れる案としては、生産年齢人口の定義を引き上げるしかないんです。

今、日本はそれをやり始めていて、65歳以上の2割が働いています。現実には、その割合はもっと多いですよ。周りを見てみれば実感できると思います。

みんなの介護 今の時代、65歳なんてまだ若々しい方はたくさんいらっしゃいますよね。

片山 全然若いですよ。ひと昔前の8掛けなんて言われてますからね。ただ…1月に軽井沢で起こったスキーバスの転落事故で、運転していたバスの運転手が65歳だったことを考えると、年齢ではなくて個人で判断しないといけないでしょうね。これからの超高齢社会は、パーソナルヘルスデータがより重要視される時代になるのでしょう。

30代や40代でパーソナルヘルスデータを重視してしまうと、例えば出世競争に影響する…といったことがあるかもしれないので、そうではなく、55~60歳くらいでしょうか。出世競争にもある程度、白黒がついた頃合いからパーソナルヘルスデータを活用して、就業環境を整備してあげれば良い。体の状態がある程度わかっていれば、例えば「心臓の機能は満点で、認知力も衰えていませんね」という場合などにバスの運転手として適合の判を押してもらえる、と。職種ごとに適合マークがあって、それに合った人であれば、65歳でも70歳でも、75歳でも、働けば良いじゃないですか。

みんなの介護 今の社会だと、定年という概念が健康な高齢者から仕事を取り上げているような感じですね。

片山 ただし、定年以降は働きたくないという人もいらっしゃるわけですから、私は年金は65歳からちゃんと支給するべきだと思います。何十年も頑張ってこられた方の「休みたい」という想いは、権利として尊重すべきでしょう。でも、「休みたくない」「何かしたい」という人もいるわけですから、その人たちの意見も尊重すべきですよね。そのためのパーソナルヘルスデータなんです。

ただこれは、なにも高齢者だけに限った話ではありません。女性も同じ。例えば産後には体の状態が不安定になりますし、産休を取って復帰した後や、30代くらいで体調を崩す人って意外と多いんですよ。私の霞が関の先輩でも、若くして亡くなった人、腰痛めて役所を辞めた人…と、いろんな人を見てきました。

みんなの介護 そう考えると、小さな子どもでも同じような感じがします。子どもは体調を崩しやすいですし。

片山 その通りですね。頻繁に体調を崩す人の多くはお年寄りか子どもで、だから小児科医の間で昨今、IoHH(インターネット・オブ・ヒューマンヘルスケア)への関心が高まっているんです。IoHHというのは、IoT(インターネット・オブ・シングス)のコンセプトと技術を活用し、人の健康状態や健康管理をオンタイムで可視化して予兆をつかみ、「未病」の段階で成人病や認知症を含むリスクを明確化して対応していこうという構想のことですが、ウェアラブルな機器を活用すればIoHHも可能になり、急病や不慮の事故などで亡くなる人も少なくすることができるでしょう。

特に今、医療と介護というのは、日本の産業の中でも生産性が低い分野なんですよね。例えば病院ですごい待ち時間ができていたとしても、延々と待たされて、診察を受けられたと思ったら「暖かくして寝てなさい」だけで終わったり。そうした無駄を排除して効率性を追求していこうと思ったら、やはりIoHHの考え方を取り入れていくべきだと思うんです。

撮影:伊原正浩

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賢人論。(けんじんろん)は、「みんなの介護」がお送りする特別インタビュー企画です。様々な業界の第一線で活躍する“賢人”の皆さんに、介護業界の現場を取り巻く問題、将来の展望について、また自身の介護経験についてなど、介護にまつわるあれこれについて、自身の思いを忌憚なく語ってもらいます。