ヘルパーさんにお世話になって8年以上が経つ
ボクがヘルパーさんという職業を初めて知ったのは、申し訳ないことに自分がこんな体になってからだ。
くも膜下出血を発症して、記憶のない時間を過ごし、1年ほど経った頃、家に帰ってきたボクの世話をしてくれた。
考えればその頃から、我が家にずっと来てくれているヘルパーさんもいる。
退院してからは8年経つわけだ。8年以上もの長い間、関わってくださっているのは記憶にある限りでは2人。
ボクはきっと、介護する側からすれば手がかかる方だと思う。
ヘルパーさんがいなくては、ボクは生活ができないし、生きてもいけない。
大袈裟でなく、ボクがこうしていられるのは、ヘルパーさんをはじめ介護をしてくれる人たちのおかげだ。
本当にいろいろなヘルパーさんがいる
8年もの間に、たくさんのヘルパーさんと出会った。すぐ担当が変わってしまった人、ケアマネになった人、あっという間にやめてしまった人、いろいろな人がいた。
こんなことがあった…。ベッド上で体を自力で動かせないボクのお尻の下に敷いてあるマットを取り除くため、横に引っ張ったが取れずに尻餅をついてしまったヘルパーさんがいた。
彼女はボクに「少しは動いてください」と言って怒った。
気持ちはよくわかる。ボクだって、手すりに捕まって横を向くように協力しているつもりだったけれど…。
その人は、ベッドから車椅子にボクを移乗できなかった。妻を見かけると「やってください」と頼んでいた。結局3回我が家に来て、その後こなくなった。他のヘルパーさんに聞いてみると「別の家で苦情が入ったからやめてしまった」と言う。
彼女は、自分がヘルパーを続けていくのは無理だと諦めてしまったそうだ。
ヘルパーの資格を取るために、数十万円の講習費用を支払ってせっかく取得したのにと、怒っていたんだそうだ。
我が家では苦情をいう暇もなくおやめになってしまったわけだけど、本当にいろいろな人がいらっしゃる。
我が家に来るヘルパーさんも、最初は「ああ、新人さんなのね?」って思う人が、ベテランに同行してやって来る。
その人たちが、どんどんベテランになっていく姿も拝見している。新人時代はたくさん苦労する時期もあるのだろうと、本当に頭が下がる。本当にいろいろな人がいて、同じことをやって帰るだけなのに全く違う。
枕カバーやテーブルの上の雑多なケア用品を、いつも気持ちよくピシッと並べ替えていく人。テレビのリモコンを、チャンネルをどうしておくのがベストかちゃんと聞いてくれる人。いつもお願いしていることの他に、何かやれることはないか、探してやっていってくれる人。
自分が使った薄型手袋を、部屋のゴミ箱に当たり前のように捨てていく人。雑然としている部屋だけど、使ったものをちゃんと戻さない人。投げやりに、ばらっと置いていくのもどうかなって思う。
使ってない毛布をちゃんと畳んでいってくれる人もいれば、その辺に丸めておく人もいる。中には「それはルールではいけないんじゃないの?」って思うことを平気でやる人もいる。
人材不足であろう介護の世界。うるさいことを言っていたら、来てくれる人なんて居なくなってしまうんじゃないかとも思う。そうしたら、ボクとしても本当に困る。
ちょっと苦情めいたことも書いてしまったが、99%の方が大変素晴らしい。そうなんだけど、嫌だなって部分はつい目についてしまうのだ。
ボクのことを熟知している2人のヘルパーさん
8年来てくださっている“一番長い”の2人の話をしようと思う
一人は「神足さんこんにちは」そう言って我が家に入ってくる中年のAさん。当たり前のことのように思うが「こんにちは」って挨拶して入ってこない人だっているから、Aさんの「こんにちは」の声が聞こえると安心する。もうボクとの連携だって慣れている。
次にどういう動きをすればいいか、お互いわかっている。ボクの仕事のこともわかってくれている。取材が急に入るという、普通の介護する家ではなさそうな事態が発生しても「大丈夫ですよ」と、その場でできる最善を提案してくれたりもする。
どうすればボクが快適か、家族が困らないかを考えてくれる。
もう一人はBさんという若い男性。若いと言っても、もう8年以上経っているんだから、それなりの年齢になっているのかもしれない。
今時の小洒落た男性で、ボクはそういう点も気に入っている。かっこいいのはいいことだ。しかも真面目。言葉遣いが丁寧だ。
仕事が丁寧。水分を取るのが苦手なボクを、うまくのせて水分補給もしてくれる。
他の人も8年とは言わないが、長年来てくださっているヘルパーさんがほとんど。先に書いたような特殊な人は、やはり長続きせずにやめてしまう。
ボクが主に利用している事業所は2ヵ所ある
我が家では、2ヵ所の事業所からヘルパーさんに来てもらっていて、そのほかの事業所から訪問看護師の人もいらしてくださる。
長く来てくださっているヘルパーさんの事業所には、24時間のヘルパーを派遣するサービスがある。妻がいないときに、ボクに困った事態が発生したら、ボタンを押せば事業所につながるようになっている。
「“もしも”のとき困るから緊急ボタンもつけてほしい」と、妻の不在時に留守番をしてくれる義母たっての願いで利用している。
その“もしも”があって、ボタンを押したのは8年間で1度だけ。それでも安心できるこのシステムは欠かせない。毎回の契約の時間以外でも、困ったことがあればボタンを押せば応答があり、呼んだら来てくれるシステムだ。それが深夜であっても。
もう一つの事業所は、介護タクシーの会社だ。そこで、ヘルパーさんの派遣もしている。ここは力のある男性スタッフが多い。痒い所に手が届くサービスっていう感じで、社長の教育が行き届いているのが伝わる。
階段の上げ下ろし、入浴、もちろん普段のサービスまでこなしてくれる。
尿の色や、匂いなんかもチェックしてくれているから「神足さん、ちょっと水分足りてないみたいですよ」なんて体調の変化もすぐわかってしまう。
旅の仕事でも新幹線の駅まで送迎してくれたり、他にもさまざまなことを手伝ってくれる。
出かける前に着替えを手伝ってもらい、髭を剃る。身支度をし、介護タクシーで送ってもらう。そんな万全なサービスをすべてしてくれるわけだ。
ボクみたいに、仕事で外出しなければいけない要介護者としてはこんなにありがたいサービスはない。
いつか我が家にも外国人ヘルパーさんが来るかも
ヘルパーさんといえば、最近では外国人の方も多くいらっしゃると聞いたことがある。昔通っていた施設でも、よくみかけた。知り合いがいる介護の会社では、人材を探しにフィリピンまで行ったとも聞いている。
特に都内は、ヘルパーさんの人材不足が深刻だという。ボクの通っていた施設に、ボクと気の合う外国人スタッフがいた。その人も確か、フィリピンの方。
日本人の旦那さんがいて、介護の世界で5年以上働いていると言っていた。日本語も上手だった。いつもニコニコしていて陽気な性格。
デイサービスのレクリエーションでカラオケをしていて、何度かボクもお邪魔したことがあったのだ。
彼女と英語の歌をデュエットした。英語ももちろん堪能。喋れないはずのボクが楽しそうに英語の歌を歌ったので、みんな相当びっくりしていた。
彼女が、そうさせる雰囲気を持っていたんだと思う。「一緒にうたおー!楽しよー!」って。
利用者の中には、「どうも外国人は受け付けない」といった声を聞いたこともあったが、しばらくすると、彼女の明るい性格、楽しい雰囲気に段々引き込まれていって、みんな仲良くなっていった。
外国人介護職員の人材に関しては、介護福祉士の資格を取るまでに特別措置もあるようだが、言葉の問題など大きな壁もあるようだ。
先に述べた、高齢者が外国人従事者を受け付けない理由として、最初に直面するのが言葉の問題だと聞いたことがある。お互い意思疎通が図れないことが一番の問題だと。当たり前の話である。
文化の違う国の中でやっていくことは、並大抵のことではないと思うが、それでもやる気と優しさは人一倍なんだとも聞いた。いずれ我が家にも、外国人ヘルパーさんがやってくることがあるのかもしれない。
ボクらがスタンダードと思っていることが、日本の家庭をのぞく、彼ら、彼女たちにとっては驚くことの連続なんだろうなあと思う。その文化の違いを知ることが、ボクは少し楽しみだったりもするのだ。
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