福祉車両を使うのは苦労も多かった
でも、長年の夢がついに現実に
ボクの長年言い続けてきたことが、今現実となって体験できている。いや、ボクが知らなかっただけで水面下ではきっと皆さんご苦労をされてやってきたのかもしれない。
国産のトヨタだとかホンダだとか日産、ダイハツなどは、ご存知の通りさまざまな福祉車両を出している。なんの不満もない良い出来だ。我が家に福祉車両がはじめてきたのは乗っていたベンツが突然終わりを告げ、急に新しい車が必要になった時だった。
近くのディーラーに行って、欲しい福祉車両を伝えたら、オーダーしてから納車まで少なくとも1ヵ月はかかると言われて帰って来た。1ヵ月も車がないのはボクにとっては死活問題であった。知人に聞くと、新古車のように登録してあるような車ならすぐ購入できるという。
いろいろ探して家から2時間ぐらいかかる営業所に1台あると聞いて出向き、その日に買って来た。そんなドタバタの中で今の車は我が家にやって来た。それから間もなくだった。ヤナセオートシステムズさんの発表は。
外車の介護車(福祉車両)。これは今まで日本国内ではなかったと言っていい。それが、2年前の福祉機器展で、オフィス清水さんとヤナセさんが「こんな改造ができますよ、外車も福祉車両に!」と大々的に発表したのだ。
誰もが「譲れないもの」を持っている
好きな車を福祉車両にできたらどんなに良いか…!
ボクは遅ればせながら28歳ぐらいからの車生活。結婚が契機になった。はじめて車を買うことになって車雑誌の編集部に相談に行った。そして、AUDIを選ぶことにした。背伸びしてヤナセでAUDI 80を買った。人生初の車だ。
それが縁で『NAVI』という車雑誌で連載することになり車人生がはじまった。それからボクは素人の車好きという変な立ち位置で車のことやその周りの生活のことを伝えてきた。長く連載させていただいたので、さまざまな車を体験した。だから今回もどうしてもお伝えしたかった。
少数派の話かもしれないのだけど、どうしてもここは譲れないというものを皆さんもお持ちだと思う。今までこだわりの車に乗っていたとしよう。もちろん国産車であっても外車であってもいい。
家族が、ちょっと体が思うようにいかなくなってきた。要介護の体になってしまった。または、事故で障がいを持ってしまった。そんな時、今までだったら乗っている車を手放して介護車や乗りやすい車に変える必要が出てくる。が、今まで好きだった車をそのまま介護車に変身させることができたら?そんなうれしいことはない。
車椅子でもキャデラックに乗りたい!
そんな夢も実現できるかもしれない
ボクは2011年にこの体になって何度も「なんで介護車に外車がないの?」「今まで長年好きでベンツに乗ってきた人は諦めて何に乗っているの?」、そう言ってきた。体を悪くしてまで贅沢な話と思うか、体を悪くしても選ぶ権利はあると思うか。
「体が思うように動かなくなると外に出たくなくなるんだよね、だから車もね…乗らなくなったよ。横に乗るだけで満足なんだけどね」そんな話を知人から聞いた。そして、「本当だったら今車庫に眠ってるキャデラックを車椅子のボクが乗れるようできればうれしいな。だって乗れないのわかっててもとってあるんだから。できたらそれに乗ってどっかに行きたい。夢の話だけど」と続けた。
やっぱりそうだよね、みんなだって密かに思っているんだ。そんな夢を叶えてくれる。
前々回の「憧れの福祉車両~オフィス清水に行ってみた~」を見た方から「今まで妻と二人でマツダの2シーターで日本中旅をした。妻が車椅子の生活になって諦めていたんだけど、神足さんの記事を読んだら助手席がそのまま車椅子になるのがあるって、それなら可能かもと思っている」こんなコメントもいただいた。
もしもそんなことができるなら。頭に描いていることができるかもしれないのだ。
念願のベンツV-Classでお出かけ
リフトからリフトへ移乗、なんてハイテクなんだ(笑)
そして、週末からついにベンツのV-Classを介護車に改造したヤナセオートシステムズさんの車に乗ってお出かけしてみた。まずは、家を出発。家の階段をスカラモービル(階段の昇降ができる移動機器)で降りる。そのままベンツについている釣瓶のような形のリフトで車内に移動。なんてハイテクなんだ(笑)。
スカラモービルから乗り移る時、釣瓶型のリフトに付属のシートをお尻の下に敷いておく。そして釣瓶型リフトでベンツの後部座席に。宙を浮いて座席にストンと落ち着く。介護している人たちはまだ慣れていなくて、あーでもないこーでもないやっていたけれど、ボクは快適である。

実際今まで海外などで、車高の高いバンに乗るのは至難のわざだった。いや、乗れなかった。抱き抱えて持ち上げてもらってようやく乗る。力のある同行者がいない限り無理な話だった。が、その点はすんなり。釣瓶型リフトを車内に付けたとしても乗車人数に変化はない。自宅内でもベッドから車椅子への移動などで使用している人もいるリフトだ。
介護される側もする側も快適に
家族が楽になるのは想像するだけでうれしい
こういうものは介護される側もする側も快適に過ごせないと意味がないと思っている。ボクが快適でも、使用している家族が使いやすいものでなければ長続きしない。我が家だったら娘や妻が使いこなせなければ意味がない。簡単だということも大きい。力がいらないという点も。

使っている自分はさらにかっこいいと気分も上がる。自分の使い慣れている車にこんなアシストがついて家族も自分も楽になるんだったらと想像するだけでもうれしい。
そしてもう一つ。後部につけたリフト。これは車椅子のまま車の後部に乗り込む。固定すれば車椅子のまま移動できる。

やっぱりこっちのほうが楽なような気もする。車椅子のまま移動できるのだから。長距離はシートに座ったほうが良いが、ちょっとそこまでならこちらの方が良いかも。どういう使い方をするかで選ぶのは悩むところ。両方つけるという選択肢はあまりないような気もするけど。
ベンツのV-Classでいえば6人乗りの三列目のシートを外しておく。そこに車椅子を固定。車椅子を使用しない時はシートを取り付ければ6人乗りのまま利用できる。椅子のレイアウトは二列目片方とか自在にアレンジできる。
ボクは三列目のシートを2個とも外してもらって、荷物もたっぷり入れられるようにしてもらった。当たり前だけど、後ろにリフトが付いたのだから荷物の出し入れにもリフトが利用できるわけで、いつも大荷物のボクもたっぷり収納できる。
好きな車をアレンジできるのって画期的!
「選べる自由」で風景は違って見えるはずだ
今回ボクが借りたベンツのV-Classなら、新車で納品される時でも、すでに乗っている車でも、自動ステップやリフトを付けるというアレンジができるそうだ。
国産の介護車両だってここまではきていない。介護車があるのは、あの車種と、あれと、あれだと、いくつかの種類に限定されている。
体の不自由なボクにとっては、自分の好きな車を介護車に変身させられるチャンスが生まれただけでも、選択肢が増えただけでも画期的なことに思える。
体が不自由になってすべてが健常の時と同じではないことは重々わかっている。が、そこに選べるという自由があるかないかでは、世の中のありかたが変わったと言っていいぐらい風景は違って見えるはずだ。
次回も続きを。
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