もうオタクとは言わないのだ
みなさんは「推し活」という言葉をご存知だろうか?
推し活とは、自分のイチオシを決めて応援すること。大好きなアイドルを「推し」とファンが呼んだのが始まりだという。
推し活の“活”は言わずもがな活動の活だ。
生活=生きる活動をすること
妊活=妊娠をするために活動すること
就活=就職活動
いろんな“活”があるけれど、最近では「終活」なんて言うのもある。自分の最期のための活動である。死を見据えて、身の回りのものや事を片付けたり、処分したり、用意したりすることだ。
推し活は、アイドルや芸能人、アニメキャラクターなどの推し関連のグッズを集めたり、イベントに参加したり、もちろんコンサートに行ったり。さらには、推しのテーマカラーの物を集めたり、推しと同じ服を買ったりと活動内容はさまざま。
一昔前は、そういう人を「オタク」と呼んで異質なものを見るような傾向もあったが、今はそんな世界に対して、温かい感じになった。時には、あばたもえくぼ。まだ推し活なんて名前がない時代からずっとずっと続いてきた。
私の推しを紹介する
実はボクにも推しと呼べる若者が何人かいる。その一人が、今日個展にお邪魔したY君。
出会いは2年前。浦安の社会福祉法人千楽で行われた、東京大学の登嶋健太さんやせきぐちあいみさん参画のVRアートの展覧会にボクもY君も出展したのだ。
Y君とは展覧会が決まる前から施設で一緒にVRアートのレクチャーを受けたりしていた。発達障がいのある彼と高次脳機能障がいで発語ができない半身麻痺のボク。お互いほとんど話さないのでコミニュケーションが取りづらい不思議な間柄だったけど、なんとなく心は通じてるって勝手に思っていた。
彼は、ちょっと先にVRアートを始めたボクの作品を見たがっていた。で、拙い絵だけど3Dで空間に描いた絵を下から上から熱心に覗いていた。見本がこんなに下手でごめんね、と思っていたけど。
そんなY君は吸収力がすごい。そのとき彼が描いていたポケモンの絵は平面だったけど、次に会うと立体の絵になっていた。ボクが説明できるわけでも彼が質問するわけでもないけれど、ボクの描いた絵の中をじっと見つめて、動き回って吸収する。
そしてある講習会の日、彼の描いた絵が入っているゴーグルを、彼とボクの中間ぐらいにポンと置いていった。
もしかして、見てっていう合図かな?
妻が「見ていいの?」と彼に聞くと、頷いた。
そこに描かれているミュウツーが波動を出している。動くペンで描かれたアートは、かなりの迫力。
妻「これ見本もないのにどうやって書いたの?今描いたんだよね」
Y君「昨日描こうと思って絵を見てきた。いろんな動きの絵。それを覚えてきて描いてる」
妻「え~すごい!」
初めて話した。お互い意識していて仲間意識もあるって分かっていたけど、なかなかボクも話せなかった。それから彼はちょっとずつ見て欲しいものがあれば差し出してくれるようにもなったし、いろんな話もしてくれるようになった。
ほんとに進化がすごいのだ。ポケモンの絵を中心にびっくりするほど動きのある絵を描く。彼はボクの推しである。それから千楽×登嶋健太×せきぐちあいみ主催施設のVRアート展覧会も東京・目黒と広島で行った。その時ボクも一緒に作品を出させてもらったが、彼の成長ぶりは著しかった。発達障がいの方々や関係者のVRアート展は大盛況のもと終了した。
VRを楽しんでいることが伝わってくるし、推したくもなるじゃないか。
一般の推しとちょっと違うのは普段の様子がわからないことなんだけど、今回彼の個展があると聞いて、駆けつけた。その日は海外出張が決まっていたけれど、予定をずらしてでも絶対行きたかった。それほど見てみたかったし、彼に会いたかった。
唯一と言っていいほど、VRアートを一緒に始めた同志のように思っている。VRアート友なのだ。
才能に溢れている彼の作品を堪能した
6月24日浦安市で行われた彼の個展。
3つの場面におけるポケモンの作品で、どれも大作だった。そして、そのアートを描くには3ヵ月かかったと彼が話してくれた。
施設に行った時だけ描くのだそう。それは時間もかかるだろうなあと思う。
彼もボクの体が不自由なのも分かっている。普通はゴーグルをかけている本人がコントローラーで空間を移動するが、ボクがゴーグルをかければ、彼がコントローラーで案内してくれる。
写真撮影:石川正勝ミラーリングされているディスプレイを見て、彼は器用に「ここの位置からがイチオシの位置」という感じに動いてくれ、合わせてくれる。見所まで連れて行ってくれる。
本当に久しぶりに会ったけど、息があってる!と嬉しくなる。貴重な推しと一緒に過ごす時間だ。
作品が終わってゴーグルを外そうとすると、もう一個描いたのがあるから見て欲しいと彼からの申し出。ゴーグルを変えて覗いてみると、びっくりするほどの大作がそこにはあった。
鳥居から入った中には紫陽花や、桜の木、ほかにもたくさんの木々。そして奥に湖、その向こうに富士山が見えた。
写真撮影:石川正勝妻「ええ?すごい、紫陽花もすごいし…富士山もワールドができてる!ポケモンじゃないじゃん!」
Y君「お祝いに描いた」
妻「ん?なんのお祝い?」
Y君「この個展の、僕の中で記念に」
妻「すごいすごい!じゃあ、皆さんにも見ていただいた方がいいんじゃないの?」
5月に個展が決まってすぐ描き始めたそうで、このアートはまだ未公開とのこと。いや、こんな機会にみてもらったほうがいいじゃないか!絶対。
それを最初に見せてくれたのだ。ありがとう!推しをやってる甲斐があるってもんだ。
彼のお母さんは「VRに出会ってから生活の一部となりました。元々幼い頃から絵を描くのは好きだったので、日常の中の一部と思っていましたが、VRは特別なようです。好きなこと、得意なことに出会えて生活に光が差し込んだようです。」と言っていた。
彼にとってVRアートは、先に見える光みたいなもんなのだろうか?だからボクがそばで見ていてキラキラしているように思えるんだなって。これからも彼とそのVRアートを推していきたい。
あと、もうひとり推している彼女(いや、家族かな)がいる。YouTubeで配信している「やまだともかチャンネル」だ。10歳の女の子とそのパパが配信している日常の動画。ママも声だけ出演している。
何が良いかって朝ごはんの配信。パクパク食べる。パパの分を取って食べちゃうこともある。グランマ(おばあちゃま)の家に行くともかちゃん、パパと歌を歌うともかちゃん。ずっとこんな元気に食べるのが見たいなあって思っていた。そう元気に食べる動画、ボクみたいに食べることに困難があったり、高齢者なんかに絶対いいって思ってたんだ。食欲も湧く。
最近気が付いたんだけど、パパが面白いんだな。ともかちゃんとのコンビがいい。朝ごはんの前に見ると食欲が湧く。この家族もボクの推し。
いろいろな推しの形がある
この数年は、大人から子どもまで「推し活」ブームとのことだ。テレビで放送していたアンケートでは、50%以上の方が推し活をしているとのこと。そんなに多いのかな?と、あたりを見回す。
30代に話を聞くと、たとえばジャニーズやAKB48は人気があるのだろう。どうしてこんなに、と思うほど熱狂的に「推し」ていたそうだ。そして、「ついに坂も登り始めちゃった」なんて訳のわからないこと言う。意味を聞いたら、乃木坂とか、「坂」が名前につくそちらのグループの推しを始めちゃったってことらしい。
ジャニーズを推している人に話を聞くと、テレビに出ているメジャーなグループの1人を「ああ、いいなあ、かっこいいなあ」と思ったそうだ。
まず、ファンクラブに入る。なかなか当たらないコンサートのチケットをどうにかゲットしようと、ファンの交流を始める。どっちかが当たるかも知れないと2人3人で一緒にチケットを購入し始める。すると、地方公演のチケットも一緒に購入したくなるという。
お互いグループ内で推しの相手が違うこともあるが、推しが同じ人の方が共感を呼びやすいと相手を募ったりすることも。はたまた“箱推し”というグループ全体を推している場合もあるというのだ。
しばらくすると、推しのグループの後ろで踊っている、まだデビュー前の子に目がいく。あの子いいかもと調べてみる。出待ちなどをすると、まだ電車で帰っている子がいるとか、直で間近で会える(見れる)可能性があると知る。その子を熱狂的に好きになっていく自分に気づく。
「今日はプレゼントを直で受け取ってくれた!!」
そんな日には、天にも昇る気持ちになったそうだ。
実際の人間でない人を推している場合もある。アニメのキャラクターやAndroidに声優、パンダが推しの子だっている。さまざまな推し活があるのだと感じる。
また先日は、お笑い芸人の居島一平さんのライブを、ぜひ見に行って欲しいとライブに誘われた。ライブ後の打ち上げで芸人の方と交流できるチケットだ。
最近居島さんの大ファンになったという70代の女性から、絶対面白いから見に行こうと言われた。彼女は熱狂的に推していて、ライブ後の差し入れも忘れないそう。
彼女は真面目でインテリなタイプだが、絶対見て欲しいと言ってきたのがお笑いだなんて、結構ギャップがあっておかしかった(良い意味で)。
もちろん居島さんのことは存じ上げていたものの、お会いするのは初めてかと思ったら、なんとお会いしたことがあったらしい。ボクの知人が居島さんの知り合いって人はたくさんいるのだ。
こんな言い方は失礼かもしれないが、ほんといつも頭のいい人だなあと思っていた。独特の知的な話に笑いがある。喋りに魅了される。その居島さんをガッツリ推している70代の彼女。
YouTubeを見始め、noteを研究し、新宿二丁目にライブを見に行く。普段8時には寝ると言っていたのに、その日ボクと別れたのはとっくに11時を過ぎていた。推し活は歳をとっていられない。
この前、テレビを見ていたら「推し」の特集をやっていた。なんとアイドルでもなんでもない「友だち推し」っていうのが流行っているらしい。身近にいる友達が可愛い、やってることが面白いなど、スマホの待受も推しの写真にしているほどだという。
そんなこと言ったらボクだって「推し」だった彼女をいとめて夫婦になった訳だから、昔も今も変わらないなあ。