5月9日、キユーピーの研究所にお邪魔した

5月9日はごっくんの日だそうだ。嚥下をテーマにした日とも言える。

その日のキユーピーでのテーマは「いつもの食事、みんなと一緒の食事を食べやすくする方法とは!?」だという。

神足さん提供写真1

ボクの毎回の食事のテーマと同じである。いつも、みんなと一緒に食べたいのだ。

今回は、特にがんの治療中、治療後の方が中心に集まった。ボクのように脳疾患の後遺症でも嚥下には苦しむし、高齢になって食べづらくなるのはなんとなく分かっていたけれど、いろいろな病で嚥下に苦しんでいる方もたくさんいることをこの度改めて知った。

イベントを開くきっかけとなった猫舌堂のwebマガジン。猫舌堂の代表の柴田さんは、元看護師さん。ご本人も耳下腺がんになったことで、食べる大変さに気がついたという。その経験から食べやすいカトラリーを販売している。そして、体験談や座談会のようなところで話した貴重な話をwebマガジンにミニコラムとして掲載している。

たとえば、コーイチさんの投稿はこんな感じだ(猫舌堂web「猫めし」より)

私の「猫めし」は、 北浦和中華楼「冷やし担々麺」 です。

私の生まれ育った街である北浦和の中華楼は、子どもの頃から慣れ親しんだ中華料理店です。
店主の菊地さんには小学生の頃からあたたかく支えていただきました。

社会人になっても、帰郷する度に、子どもの頃からの変わらぬ味で出迎えてくれました。

舌がんの再発がわかり、舌と声帯を全摘しないと命が助からないと医師に言われ、葛藤の末、命を優先して手術を受けることにしました。

手術を受けるひと月前から、人生最後の食事を味わうため、中華楼に訪れると、菊地さんが、
「コーイチ、この味を覚えておけよ!」
と言って数々の料理を出してくれました。

その中で特に好きだったのが、冷やし担々麺です。
暑い夏にキリッと冷たいスープと麺、そしてピリッとからい山椒が爽快でした。

手術後、舌と声を失い、固形物が食べられなくなった私に菊地さんが出してくれたのが、この嚥下食用の冷やし担々麺です。

人間の味覚は舌だけじゃなく、口の中や喉にも残っているようで、あの懐かしい味と山椒の香りを鮮やかに感じることができました。

ほかにも、みね♡さんのコラムはこんな感じだ

私の「猫めし」は、 ミルクプリン です。

2013年、口の中と舌の切除、腹部皮弁移植手術。口の痛みと腫れとしびれ。点滴と、エンシュア缶を鼻からチューブ食。

「口から何か食べたい!」
缶の積み上げられている段ボールを見ながら『ありがとうノート』に食べたいものを書き、食べる夢ばかり見ていました。

やっと、缶が少なくなった! と思ったとき、2度目の手術と言われ……
「一度でいいから口から何か食べたい!」と号泣して懇願しました。無理と仰った先生も「どうせ食べられませんけどね。」と黙認!? してくださいました。

いつも売店で見ていて、絶対食べよう! と願っていた「ミルクプリン」。

なんと! 完食できました! 嬉しくて、おいしくて涙と元気が出ました。

「食べたい!」っていう念い(おもい)。
退院後も、しびれと痛みで口を開けるのもつらかったけど、「食べたい!」気持ちが勝ちました。

少し食べては、やけどをしたり、噛んだりして、すぐ口内炎になったり、縫い目のところに挟まってすごく痛かったり。

そんなときも「ミルクプリン」なら大丈夫。

当時、スプーンやフォークは口も開けられないし、(顎関節症にもなりました)当たって痛いので、赤ちゃん用のものや細いお箸、爪楊枝を使ってすごくゆっくり食べました。

ストローも無理で小さいスプーンで口に含み、タオルで拭いてました。

猫舌堂さんのイイサジーのスプーンが発売されたときは感動しました! もっと早くあったら……
もちろん! 今は愛用しています♡

他にもたくさん興味深いコラムが寄せられているので、みなさんにも読んでほしい。やはり自分の口から、しかも今までと同じものをみんなと一緒に食べたいんだと、たくさんのコラムを読んで改めて感じた。

お医者さんに驚かれても、無理だと言われても食べたい

ボクにも同じような経験がある。発症から1年経った頃、胃ろうからやっと口から食べるお許しが出た。

しかし、ボクは飲み込むことを忘れていた。飲み込むことも忘れていれば、吐き出すこともできなかった。うがいをした水をペッと口の外に出すことすらできなくなっていた。

せっかく胃ろうを卒業できても、それができなければまた逆戻りだ。何千回も見よう見まねで練習して、ようやくちょっとだけ食べ物を口にすることができるようになった。

そんな状態だったから、いつもいつも病院の食堂で一番最後まで残って食事をしていた。食事をすることが苦痛だった。あんなにも口から食べることを希望していたのに。

食べられない辛さは、体が動かない辛さよりもキツかったかもしれない。今では、もちろん口から食べられるようになって、もう10年は経ったかな。

口から食べられる状況ではあるから、今回のみなさんに比べたら大したことでないかもしれない。それでも自分的には「食べること」が上手くいかないのは悩みである。

なんで食べられないんだろうか?と、嚥下の検査をしたけれど全く問題ないという結果だった。だけど食べようとすると食べられない。なぜだか食べられないのだ。入院中の食事は重湯のような状態のもので、固形物はプリン。どの程度食べられるかの検査のために、そんな食事が続いていた。

プリンをごっくん飲み込むところをレントゲンで撮ったが、食事の形態はあまり変化せず。

退院に向けてのサマリーにも流動食と書かれていた。

自分でも不思議なのだが、刻み食や病院でよく出てくるツナをほぐしたような形状の魚だと飲み込めなかった。焼き魚や照り焼きでも飲み込めず、口の中に残ってしまう。

「神足さん、やはりお口から食べるとき、固形物は無理かもしれません」

それでもボクは焼肉屋に行くし、ステーキ屋にも行く。病院での刻み食も食べられないのにって驚かれる。嚥下に問題がないと言われているが、なぜか飲み込めない。また何千回も練習すればできるようになるのかもしれない。

みんなと同じ食事がしたい。自分が食べたいのは、普通の食事だ。リスクを冒しても食べたいものを食べる。

飲み込めずに口に残ってしまったものは吐き出させてもらう。外食時はそっと食卓を離れて吐き出すこともある。それでも食べた実感は味わえるから。

往診の先生がたまたま昼食時にいらしたことがあって「神足さん!こんなもの食べてるんですか!」と驚かれたことがあった。

おかゆにとろみ付きの刻み食がせいぜいと思っていらしたみたいだった。その日は、普通のご飯にチキンカレーだった。カレーはボクにとっては食べやすいのだ。それにポテトサラダ。

カレーのチキンは口に残るかもしれないが、ジャガイモも玉ねぎもにんじんも他の家族と同じ物を食べられる。ポテトサラダのきゅうりは食べられないかもしれないが、マヨネーズが食べやすくしてくれている。

妻はボクに家族と一緒のメニューをと、考えていないようで実は考えているのかもしれない。

それでも医師は驚いていた。「これ食べられちゃうんですね」

マヨネーズは普段から活用している

この度のキユーピーでのイベントでも同じ話があった。マヨネーズが嚥下に問題がある人でも食べやすくなる調味料であること。そう猫舌堂の方が仰っていた。

ボクも経験から以前からマヨネーズは多用していた。ポテトサラダ、マヨネーズをかけてオーブン焼きにした野菜は食べやすい。ブロッコリーなんかは普段食べられないが、こうすればOKになる。

神足さん提供写真2
写真撮影:石川正勝

日によって違う嚥下状態は日によって違うけど、食べづらい時はよくマヨネーズが出てきていた。マヨラーみたいに、スイートコーンをマヨネーズで味付けしたものをご飯にかけたり。マヨネーズ以外にも、たまごかけご飯や、納豆ご飯も同様だ。

野菜は繊維のあるものは食べられないので、チョイスが難しい。にらやもやしなんかは天敵だけど、かぼちゃやジャガイモ、皮を剥いたトマト、にんじんなんかは大丈夫。ほうれん草は、調理法による。こんな感じでなかなか難しいのだ。

魚もパサパサしていると食べられないし、肉はひき肉以外ほとんど無理だけども、食べたい気持ちはある。最近はラーメンやパスタも難しいと感じることもある。もちろん短く切ってもらってのこと。ハサミは欠かせない。

猫舌堂さんのブログにも同じような思いを綴っている方がいたが、「あなたはこういう状態だから、これぐらいの形状のものを食べるべきだ」なんていう正しい?情報は二の次だ。

ボクは、死んでも仕方ないと覚悟を持って食べている。他の方の選択肢を知って、「こんな食べ方をしている人もいる」って分かったらどんなに心強いだろうと、今回のイベントで改めて思った。

食べることが楽しみなうちは、諦めていないうちは、まだまだ元気でいられる。