シニア・ピア・カウンセリングという言葉をご存知でしょうか。
まず、「ピア・カウンセリング」とは同じような立場や悩みを抱えた人たちが集まって、同じ仲間として相談し合い、仲間同士で支え合うことを目的としたカウンセリングのことであり、「シニア・ピア・カウンセリング」の場合はシニア(高齢者)同士で集まります。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、アメリカでは数十年前から実施されています。高齢者による高齢者のための「傾聴ボランティア」と考えるとわかりやすいかもしれません。
今回は、シニア・ピア・カウンセリングについて多角的な視点からまとめてみましたので、ぜひご参考ください。
シニア・ピア・カウンセリングとは
シニア・ピア・カウンセリングとは、シニア(高齢者)同士がお互いの経験や知識を共有して支え合うカウンセリングです。
日本傾聴ボランティア協会によると、具体的なシニア・ピア・カウンセリングの活動は「元気な高齢者がカウンセリングの基本を学び、悩みを持つお年寄りの話し相手として相談に乗る」とされており、高齢者の不安の軽減などが期待されています。
高齢者の悩みを解決するのは、家族やソーシャルワーカーに限られません。世代の違いが悩みの理解に壁を生じさせるケースも少なからずあるでしょう。
そのため、高齢者のピア・カウンセラー(シニア・ピア・カウンセラー)の役割が重要になるとされています。
さらに細かく言葉を説明すると、ピアは仲間という意味であり、ピア・カウンセリングは近い経験を持つ方からの支援が大きな意味を持つことを否定できません。
共通の社会的経験を持つ同世代の方が話を聞くことによって、不安を軽くする効果が期待されます。
シニア・ピア・カウンセリングの効果
以下にシニア・ピア・カウンセリングを行うことで得られると予想される主な効果を3つ挙げてみました。
共感と理解が得られる
近い経験を共有できるシニア同士が支援を行うことで、相手の立場や感情に共感しやすくなり、より深い理解が生まれます。受け手は自分自身を受け入れやすくなり、よりオープンに話すことができます。
自信を持てる
シニア・ピア・カウンセリングに参加することで、シニアは自分の経験や知識がほかの人に役立つことを実感し、自己肯定感や自己効力感が向上することが期待されます。
孤独感が軽減される
高齢者は社会的な孤立感や孤独感に直面しやすいとされていますが、シニア・ピア・カウンセリングへの参加により、共通の関心事や経験を持つ仲間との交流を通じて孤独感が軽減されることが期待されます。
上記の効果は、一般論として述べられている効果です。実は、傾聴ボランティアを含むシニア・ピア・カウンセリングの効果や影響について、実証的な検討はほとんど行われていません。
ただし、効果がないということではありません。
世代や経験が近いカウンセラーであるからこそ、仲間意識や意欲に対する共感が得られることは十分に考えられます。
シニア・ピア・カウンセリングの考え方は、同じ年齢や経験を持つ人同士はお互いに理解しやすく共感しやすいということに基づいており、高齢期をいきいきと過ごすために重要な要素を含んでいると言えます。
つまり、シニア・ピア・カウンセラーだからこそ、高齢者に良い精神的な影響を与えられる可能性があるのです。
傾聴ボランティア活動に対する意見について
「シニア・ピア・カウンセリング」に限らず、高齢者への傾聴ボランティア活動はすべての対象者に効果があるとは言いきれません。そこで、実際の聞き取り調査を元にした研究を参考に傾聴ボランティアの良い部分と悪い部分を考察します。
傾聴ボランティア活動に対する肯定的な意見
「施設内高齢者における対話・交流の現状と交流ニーズ明確化の試みー施設内高齢者の理解とボランティア導入の支援としてー」という研究によると、以下のような肯定的な回答が得られました。
- 人とゆっくり(長い時間)おしゃべりできるとよい。
- 人と話をすると利口になる。知らないことを知ることができるようになる。
- 人の話を聞くのが好きだ。社会のことなどわからなくても知りたいので話してほしい。
- 部屋でリハをするとき、話をしたほうが体がよく動く。
- 人と話すことは自分にも相手にもプラスになる。高齢者にはその人の人生を聞いてあげるとよい。
- 人と話すことで力をもらう。認知症でも話をすることは大切。よく話を聞けば穏やかになるし邪魔者扱いされれば厳しくなる。
「閉じこもり高齢者への傾聴ボランティア活動に対する利用者評価:聞き取り調査に基づいた検討」という研究によると、傾聴ボランティアについて以下のような肯定的な意見が聞かれました。
- 話をするという生きるうえで欠かせないことを支えてくれる。
- 自分からは動けないから、来てくれるのが楽しみ。
- どうですか、とききに来てくれるのはありがたい。
傾聴ボランティア活動に対する否定的な意見
傾聴ボランティア活動に対しての意見は肯定的な内容ばかりではありません。
たとえば、「施設内高齢者における対話・交流の現状と交流ニーズ明確化の試みー施設内高齢者の理解とボランティア導入の支援としてー」では、以下のような交流に対する不安感や負担感についての回答が見られました。
- 自分から声をかけて話をするのは苦手。自分と話してくれる人はいない。外部の人は今の自分(バカのような)と話などできないのではないかと思う。
- 難聴なので他の入所者と話がしにくい。話ができたら良いが仕方がない。
- 自分のことを自分でできるようにならないと人と話す気にはなれない。
- 面倒なときもある。
また、「閉じこもり高齢者への傾聴ボランティア活動に対する利用者評価:聞き取り調査に基づいた検討」という研究でも以下のような否定的な意見が聞かれました。
- 本音は話せない。話好きな人にはいいけど。
- 積極的に楽しませてはくれない。
- ひとりでいるのに慣れると、寂しさもなくなる。
傾聴ボランティアはすべての人に有効とは限らない
傾聴ボランティアに対して、否定的な意見は存在しています。つまり、すべての人が良い効果が得られるとは限りません。
人との交流が苦手な方がいたり、難聴だったりする方もいるでしょう。そのような方と交流するとき、プラスの影響を与えるのは難しいケースがあります。
また、原因は対象の高齢者の特徴のみとは限りません。傾聴ボランティアをする側や会話をする環境等の特徴も影響すると考えられるでしょう。
たとえば、シニア・ピア・カウンセリングをする場合、カウンセラーが高齢者という条件が含まれますが、高齢者との交流よりも若年者との交流を好まれる方もいます。
さらに、施設入所しているケースか、デイサービスに通っているケースかの環境によっても傾聴ボランティアの印象が変わる可能性は否めません。
施設入所している高齢者は、交流の機会がある程度限られてしまいます。傾聴ボランティアの方とお話しすることが、特別な交流になり得て、良い体験を生む可能性があると予想できます。
次に「デイサービスに通い、地域の交流会にも参加している方」を仮定してみましょう。このようなケースの場合、すでに交流の機会が多くあるため、傾聴ボランティアの方とのお話が特別な交流と感じられないことも十分考えられます。かえって「1人の時間が欲しい」と思っているかもしれません。
以上のように、傾聴ボランティアが良い効果を発揮するためには、さまざまな条件がうまく適合する必要があると捉えられるでしょう。
介護の現場でシニア・ピア・カウンセリングを実践するには
繰り返しになりますが、シニア・ピア・カウンセリングの活動は「元気な高齢者がカウンセリングの基本を学び、悩みを持つお年寄りの話し相手として相談に乗る」とされています。
元気な高齢者に該当するスタッフがいれば、カウンセリングの基本を学ぶことでシニア・ピア・カウンセリングを実施できるでしょう。
ですが、介護人材不足が懸念される昨今では、元気な高齢者に該当するスタッフが傾聴ボランティア活動をすることが難しいことも多いでしょう。その場合、外部にボランティアを依頼するのも1つの手です。
現場のスタッフがシニア・ピア・カウンセリングをするときのポイント
シニア・ピア・カウンセリングを適切に行うためには、養成講座などでカウンセリングの基本を学ぶのが良いでしょう。
しかし、傾聴は養成講座を受けなければできないことではありません。傾聴のコツを抑えれば、ある程度の効果を得られることでしょう。
アメリカの心理学者のカール・ロジャーズは、傾聴を3つの要素で表しました。
- 共感的理解
- 相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
- 無条件の肯定的関心
- 相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せずに、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる。
- 自己一致
- 聴き手が相手にも、自分にも真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
上記3つの要素を抑えながらコミュニケーションを取ることが、傾聴において重要になります。
コミュニケーションの具体的なポイントを挙げるとすれば、以下のようになるでしょう。
- 積極的なアドバイスはしない
- わかりやすい反応をする
- 物事の良し悪しを判断しない
傾聴をするときは、真摯な対応が求められます。自分自身と相手に対して、真面目な気持ちで接することが大切になるでしょう。また、共感しつつ、肯定的な姿勢が要素に挙げられるため、積極的なアドバイスや善悪を判断しながら意見を述べるような対応は望ましくありません。
傾聴の心構えを持って、真摯に接することで、良い効果を得られるでしょう。
シニア・ピア・カウンセリングの依頼の仕方
ボランティアを探すには、各地域の社会福祉協議会のホームページから情報を得て、見つけることをおすすめします。
たとえば、東京都日野市社会福祉協議会では、依頼できるボランティア活動の一覧情報から、ボランティア依頼までの流れが解説されています。
一般的には、各地域のボランティアセンターに電話相談することから始まりますので、傾聴ボランティアなどの依頼をしたい場合は、相談から始めてみると良いでしょう。
【参考文献】
日本傾聴ボランティア協会
保科寧子(2016)「施設内高齢者における対話・交流の現状と交流ニーズ明確化の試みー施設内高齢者の理解とボランティア導入の支援としてー」『高齢者ケアリング学研究会誌』、Vol7. No1
閉じこもり高齢者への傾聴ボランティア活動に対する利用者評価:聞き取り調査に基づいた検討
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト