こんにちは。薬剤師の雜賀匡史です。
私は大学を卒業してから今まで、薬剤師として仕事をしてきました。今も薬局や薬剤師会などで仕事をしていますし、記事のライターとして執筆のお仕事や研修講師も「薬剤師として」お声がけいただく機会の方が圧倒的に多いです。
私は今年の3月に「さいが居宅介護支援事業所」を立ち上げ、ケアマネージャーとしての仕事をスタートしました。10年以上薬剤師として在宅業界に携わっているので、親しいケアマネージャーからケアマネジメント業務のご苦労などを見聞きしていました。
とはいえ、まさか自分がケアマネージャーとして仕事をすることになるとは思いもしませんでしたが、いろいろな偶然と奇跡が重なり、仕事をはじめることになりました。
ケアマネジメント業務は毎日わからないことの連続ですが、新鮮で学び多き毎日でもあります。このような中で日々重要だと感じるのは、「医療と介護の連携の大切さ」です。今回は、医療を見る視点と生活を視る視点のそれぞれから、「連携」について考えてみたいと思います。
介護職と行うはじめてのグループディスカッション
私がケアマネージャー試験を受けた2018年は、試験制度が大きく変わった年で、試験合格者を対象とした研修と実習が追加されました。その中では座学だけでなく、グループディスカッションを行います。グループディスカッションの経験は薬剤師としてはありましたが、メンバーのほぼ全員が介護の専門資格を持っている方々で埋まるといった環境下で行うのははじめてでした。
わからない用語やサービスについては、講師の先生に質問しなくても同じグループの人に教えてもらうことができたので、私にとっては非常に恵まれた環境で研修を行うことができました。一方で、薬や検査値がテキストに出てきたときには、それがどのような薬で、どんな疾患に使われ、今の検査値の状態はどの程度の値なのかなどをグループと共有しました。
ケアマネージャーと薬剤師では注目する箇所が異なる
薬剤師は「生命・健康維持」に重きを置く
また、グループディスカッションでは事例検討をよく行いました。モデルケースとして糖尿病や心疾患などを持っている人のケアプランの作成です。同様の事例検討は薬剤師の研修でも行いますが、その内容は大きく異なります。
薬剤師が行う事例検討では、治療や薬にフォーカスが当たります。例えば、糖尿病を悪化させない為にどのような治療を提供すべきか、食事や運動療法に加え、治療効果と副作用の有無を検討するわけです。これが心疾患を抱えている人の場合、再発予防と悪化防止の為に血液検査値などを参考にしながら必要な治療薬や治療方法などを検討します。
また、複数の薬を使用している場合や、多科受診をしているようなケースでは、薬の削減や薬同士の相性(相互作用)なども検討事項に入ります。これらの事例検討では、生命維持や健康維持を目的とした視点からのアプローチが多いように感じています。
ケアマネが重要とするのは「QOLの維持・向上」
一方、ケアマネージャーの事例検討では、治療や服薬はメインテーマにはなりません。まずその人の生活を考え、その人の希望を考え、そのうえで利用できる社会資源を検討していきます。私たちは、病気を治す為に毎日を過ごしているわけではありません。病気を治療するということは、生活の質を保つ為の一つの手段に過ぎず、決して常に優先される事項ではないのです。
それぞれの専門性を掛けあわせることが重要
私がグループディスカッションで学んだこの「視点」は、その人の生活の質の向上を考えるときにとても大切だと感じました。この「生活を見る視点」は、薬剤師のような医療従事者も持っておくべきだと思います。薬や疾患だけでなく、生活を見ることができて、初めて本当の支援が成立するでしょう。
「ケアマネージャーは薬や疾患を気にしなくて良いのか?」と言うと、そんなことはありませんよね。例えば、心疾患を抱えて激しい運動が制限されているにもかかわらず、本人が希望する回数のリハビリサービスを多用することは生命の危険を伴うかもしれません。
また、糖尿病の悪化を防ぐ為に訪問看護師を入れ、さらにリハビリサービスを利用することで、「本当に糖尿病の悪化を防ぐことができるのか?」と言えば、その人にとって本当に必要なものは、サービスの利用ではなく適切な薬物治療かもしれません。
もし、独居の認知症の人に対し、1日5回の服薬が必要な処方内容が出ていたらどうでしょうか。5回服薬できるようなサービスの導入を検討する前に、薬を1回にまとめることを考える方が大切なのかもしれません。
医療と介護の連携が必要な理由は「ここ」にあると思います。それぞれ視点の異なる職種と連携することで、総合的にその人をみることができ、その人の為だけの支援計画を立てることができます。
在宅介護の領域では、さまざまな専門家がそれぞれの分野で力を発揮するために控えています。その力を個の力で終わらせるのではなく、互いに連携することで一つの大きな力にすることが、これからの時代には求められているのだと思います。