口内炎は多くの方が経験する疾患です。健康な方であれば1週間程度で改善するため、あまり気にとめない方もいるでしょう。
しかし、高齢者の場合は、口内炎が治りにくく、さまざまな疾患の原因となることもあるので注意が必要です。
そこで今回は、高齢者の口内炎の特徴と、その対策についてお伝えします。
一般的な口内炎の特徴
口内炎は何らかの原因によって口の粘膜に刺激が加わり、炎症が起こっている状態のことを指します。
一般的には、「アフタ性口内炎」のことを口内炎とよく呼んでいます。
アフタとは、表面が白や黄色の膜でおおわれて、周りが赤くなっている状態の、口の中の粘膜にできる小さい腫瘍です。アフタ性口内炎では、アフタが多発しやすく、アフタの周囲の粘膜は炎症を伴っています。
アフタ性口内炎の原因は不明なことも多く、ストレスや栄養不足、睡眠不足などが関連していると言われています。小さなアフタが2~3個群がって発生することもありますが、多くの場合、10日~2週間ほどで自然に治ります。
しかし、口内炎は頬の内側や舌、唇など口の中のさまざまなところにでき、その原因や症状にもさまざまなものがあります。
注意すべき口内炎
高齢者では、疾患や薬剤の影響、免疫力の低下があり、一般的に口内炎が治りにくくなります。
しかし、治りにくい口内炎は、別の問題が生じている場合もあります。特に気をつけたいのが、口腔カンジダ症(カンジダ性口内炎)です。
口腔カンジダ症(カンジダ性口内炎)
高齢者の口腔カンジダ症は近年増加してきているとされています。本来カンジダ菌は健康な人の口に日常的に存在する細菌で無害であり、うがい、食事や唾液の自浄作用によって容易に口の粘膜からはがれて飲み込まれています。
しかし、長く粘膜の表面にとどまると、粘膜に強固に付着してしまい、うがいだけでは剥がれなくなってしまいます。さらに、粘膜にとどまると、カンジダ菌は糸くずのような仮性菌糸を粘膜に伸ばしていき、口の中に問題を発生させます。
そのため、口の中がザラザラする、ピリピリする、味覚の変化などの自覚症状が起こりやすくなります。さらに進行すると、カンジダ性口内炎を生じ、強い痛みが続くこともあります。
そのほか、口内炎にはヘルペスなどのウイルスの増殖が原因の「ウイルス性口内炎」や、特定の食べ物や薬、金属などの刺激が原因となる「アレルギー性口内炎」などもあります。
口内炎は、その原因により治療や対処方法が変わってきます。
口内炎を予防する3つのケア
口内炎の予防には、口腔ケアで入れ歯や口の中をきれいに保つことと、粘膜を傷つけないようにすること、また栄養や睡眠など生活を整えることがとても大切です。
入れ歯や口の中をきれいに保つ
まずは日常的な口腔ケアで歯や入れ歯をきれいに保つことが大切です。
特に入れ歯が不潔な状態であると、口腔カンジダ症になりやすくなります。入れ歯を装着して痛みがなくても、入れ歯をしばらく使った後に、入れ歯の形と一致した粘膜の赤みがある場合は、口腔カンジダ症が原因である可能性があります。
入れ歯の内部には無数の気泡があり、その気泡にカンジダ菌が入り込むと言われています。また、入れ歯には、細菌が付着しやすいという特徴もあります。
そのため、食後や寝る前は、水洗で入れ歯用のブラシを使用し機械的に洗浄することと、夜間は入れ歯専用の入れものに入れ、入れ歯洗浄剤を使用し化学的に洗浄をするケアがとても大切になります。
入れ歯の見た目がきれいなため、入れ歯洗浄剤を毎日使用する必要がないと思われている方もいます。
たとえきれいに見えていても、水洗だけでは微細な細菌は取り除けないため、そのままでは細菌が除去されていない入れ歯を再度使用してしまうことになります。
入れ歯は、入れ歯洗浄剤を毎日使用してきれいな状態を保ちましょう。
口の粘膜を傷つけないようにする
次に高齢者の口内炎で多い原因は、口の粘膜の傷です。入れ歯や、熱い食べ物などが口の中の粘膜に触れ、その刺激によって傷ができて細菌やウィルスが繁殖する原因となる可能性があるからです。
そのため、できる限り口の中を傷つけないように気をつけましょう。
特に、歯や入れ歯が問題となる場合がよくあります。歯や歯の詰め物、かぶせ物が尖っていたり、入れ歯が合っていない、入れ歯の金具が変形しているなどが口の粘膜を傷つける原因となります。
このような歯や入れ歯があれば、早期に歯科受診するようにし、粘膜を傷つけないように気をつけてください。
また、口の中が乾燥していたり、口の動きが低下している場合は、硬い食物や食具が傷粘膜を傷つける原因となる場合もあります。
フランスパン、てんぷらの衣、せんべいなど硬い食物を噛む際には気をつけ、スプーンなどの食具でも傷つけないように気を付けましょう。
生活を整える
口内炎は免疫力の低下で悪化しやすくなります。そのため、しっかり栄養を摂取し、適度な運動を行い、良質な睡眠が大切です。
高齢者では、特に食事量が少なくなったり、食事内容が偏ったりすることもあります。普段から多様な食物を摂取するように心がけ、食事量が減ってきたときには、市販の栄養補助食品などを検討するのも良いでしょう。
そのほか気をつけたいこと
高齢者の長引く口内炎は、さまざまな病気の可能性を含んでいます。
粘膜が白く変化してただれを伴う白板症(はくばんしょう)は、口腔カンジダ症と似た症状が現れます。しかし、こすっても白い膜がはがれることはなく、だんだん厚くなり硬くなっていく特徴があります。
舌の縁にできたものや、ただれた状態、潰瘍を伴うものは悪性化する可能性があるので注意しましょう。
また、舌や歯肉の粘膜が薄くなり、鮮紅色になる紅板症(こうばんしょう)も口腔カンジダ症と似た症状があります。紅板症では、熱いものや辛いものがしみたり、歯ぶらしの使用で痛みを伴うという症状が特徴的です。白板症よりさらに悪性化する可能性が高いと言われており、こちらも注意が必要になります。
加えて、舌や歯肉にできる舌がんなどは、硬いしこりがあったり、痛みや出血を伴うこともあります。しかし、見た目がアフタ性口内炎とよく似ており、素人目線での判別は困難です。
自覚症状が現れないこともあり、そのまま放置される方も多く、特に注意が必要になります。
2週間が経過しても口内炎が治らない場合や、しこりがある場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。