高齢になると食の好みが変わりやすく、咀嚼力や嚥下力も低下しやすくなります。そのため、高齢者が低栄養にならないように、しっかりと必要量を摂取できるよう工夫することが大切です。
とはいえ、「1日3食、献立を考えるのが大変」「つくってもあまり食べてくれない」とお悩みの方もいるでしょう。
そこで今回は、高齢者の献立を考えるときのコツと、調理のポイントについてご紹介します。
食事の多様性や食行動が高齢者に与える影響
普段食べている食事の内容や献立づくり、調理などは、高齢者にとって良い影響を及ぼすとされています。さまざまな食品を食べることで、多くの栄養素を摂取できるようになり、認知症予防にもつながるのです。
実際に、国立長寿医療研究センターと国立がん研究センターで共同研究した結果によると、多様な食品を摂ることで認知症の発症リスクを軽減することが示されています。食事の多様性が高いと、栄養素を過不足なく摂取できるため、脳内の栄養状態が良くなり、認知症発症の予防が期待できると考えられます。
また自ら料理をつくったり、献立を考えたりすることも、認知機能の維持につながるといわれています。私が以前勤めていた施設でも、利用者様が食べたいものを一緒につくる機会を設けていました。
「昔から飲み慣れているお味噌汁がつくりたい」という利用者の希望を叶えるために、調理のサポートをしながらつくったのです。その利用者は認知症を患っておりましたが、昔に戻ったかのように生き生きと料理をされていました。
とはいえ、華やかな料理をつくる必要はありません。高齢者の方が本当に望んでいることに、耳を傾けてあげることが大切です。身近な高齢者の気持ちが動いたときに、一緒につくれる環境を用意してあげると良いでしょう。
高齢者の献立づくりでおすすめの栄養素と食材
高齢者の食事をつくる際、どのような栄養素を意識して摂れば良いのかお悩みの方はいませんか?
高齢者は低栄養になりやすいため、しっかりと栄養素を摂る必要があります。ここからは、高齢者の献立づくりで取り入れたい栄養素と食材についてご紹介します。
タンパク質
タンパク質は体をつくるもとになる栄養素で、低栄養予防のために欠かせない栄養素のひとつです。ほかにも、酵素やホルモンなどのバランスを整える働きがあります。
不足すると免疫力や筋力が低下しやすくなるため、1日3回、肉や魚、卵などからタンパク質を取り入れましょう。あまり多く食べられない方は、間食にヨーグルトやプリンなどを取り入れるのもひとつの手です。
- ささみ
- 豚肉
- いわし
- かつお
- 卵
- 納豆
- 豆腐
- 牛乳など
咀嚼力や嚥下力が低下している方にはひき肉を使ったり、軟らかく煮たりとろみをつけて飲み込みやすくするなどの工夫が有効です。
カルシウム
カルシウムは骨を丈夫にするために必要な栄養素です。筋肉の収縮や血液凝固作用、神経を安定させる働きもあります。カルシウムが不足すると骨折や骨軟化症、骨粗しょう症などのリスクが高まります。カルシウムは不足しやすい栄養素なので、積極的に摂りましょう。
- あじ
- わかさぎ
- 桜エビ
- 高野豆腐
- 納豆
- きな粉
- 切り干し大根
- 小松菜
- チーズ
- ヨーグルト
- 牛乳など
ビタミンDを一緒に摂るとカルシウムの吸収率が高まるため、鮭やかつお、いわし、干ししいたけなども意識して摂取することをおすすめします。
食物繊維
食物繊維の主な働きは、腸内環境を整えて便通を良くすることです。さらに、血糖値の急上昇を抑えたり、血中コレステロール濃度の低下を促す作用もあります。食物繊維は、善玉菌のエサになる水溶性食物繊維と便のカサを増やす不溶性食物繊維にわけられます。
- 切り干し大根
- ごぼう
- ブロッコリー
- おから
- いんげん豆
- しいたけ
- さつまいも
- こんにゃくなど
食物繊維は野菜や果物に多く含まれていますが、高齢者にとって繊維質が多いものは食べづらく、意識して摂取しないと不足しがちです。
生野菜よりも煮たり茹でたりしたほうが全体量が減るので、摂取しやすくなります。炊飯時に麦を入れて麦飯にすると、手軽に食物繊維が補給できるのでぜひ試してみてください。
高齢者の食事づくりのコツ
【献立編】
高齢者の献立をつくるときのポイントは、無理なく栄養バランスのとれた食事を心がけることです。主食(ご飯、パン、麺類など)、主菜(肉・魚など)、副菜(野菜類など)を基本に低栄養にならないように、食べたくなるよう工夫しましょう。
とはいえ、毎日献立を考えるのが大変という方は、いつもの料理をアレンジすることから始めてみても良いかもしれません。そこで、簡単に献立を組み立てるコツやポイントについてご紹介します。
仕上がりをイメージして献立をつくる
同じ色の食材が重ならないように、さまざまな食材を使っておいしそうに見せることがポイントです。
色彩豊かな食事にすると食欲がわきやすく、低栄養予防にも効果的です。また、色とりどりの食材を使うと、自然と栄養バランスも整いやすくなります。旬の食材を使って季節感を出すことも意識しましょう。
料理の食材を変える
献立づくりが大変なときは、調味料の配合を変えずに使用する食材を変えるだけでも問題ありません。例えば、肉を魚に変える、野菜の種類を変えるなどのアレンジが良いでしょう。また、得意料理を応用すると、簡単に献立が組み立てやすくなります。
- 豆腐からナスに変更する
- 豆腐から春雨に変更する
- 豚肉からサバ缶に変更する
- サバ缶からツナに変更する
- ツナから蒸し大豆に変更する
※肉がかみ切れない場合は、ひき肉を使ってキーマカレーにすると食べやすくなります。
料理の味付けを変える
使用する食材は変えずに味付けだけを変える方法もあります。例えば、いつも食べている料理にごま油を加えて風味を追加するだけでも、料理の印象が変わるものです。
- 和風ソース
- トマトソース
- 梅おろしソース
※ソースを変えるだけでも味の変化が楽しめます。
【野菜炒めの場合】- 塩こしょうで味付けをする
- オイスターソースでコクと風味を加える
- カレー粉を追加してスパイシーに仕上げる
- めんつゆで和風にする
料理に食材を追加する
得意料理に、風味をプラスする食材を加えるのもおすすめです。同じ料理でも飽きることなく食べられます。レパートリーが少なくてお悩みの方は、食材や味付けを変えるだけでなく、新たに追加する方法も考えてみると良いでしょう。
- 大葉を散らすと爽やかさが加わる
- チーズを加えればコクも出てカルシウムも補給できる
- 味噌風味に仕上げる
- カレールーを加えて、余った肉じゃがで和風カレーをつくる
- 野菜をたっぷり使って肉団子スープにする
- 揚げた肉団子を甘酢あんで絡める
- トマト缶を加えて煮込む
- ご飯、肉団子、ホワイトソースの上にチーズを乗せてオーブンで焼き、ドリア風にする
【調理編】
高齢者の献立を考えるときは、調理法や食材の切り方にも配慮が必要です。ここからは、高齢者におすすめの調理法についてご紹介します。
調理法を工夫する
調理法を工夫するとバリエーションが豊かになり、食事量アップにつながります。「煮る」「蒸す」「茹でる」「焼く」「炒める」「揚げる」など、食べ方に変化をつけると献立が組み立てやすくなります。
ただし、「茹でる」「蒸す」調理法は、カロリーが抑えられるので、ダイエット向きの調理法ですが、食が細くて一度にたくさん食べられない方は注意が必要です。
エネルギーをしっかり補給したいときは、油を使った「炒める」「揚げる」などが効果的です。とはいえ、炒め物や揚げ物ばかりだと飽きてしまうので、食べる方の様子を見ながら調整しましょう。
食べやすいように工夫する
高齢者は硬いものや繊維質のものが苦手です。調理するときは、高齢者が食べやすいように軟らかく茹で、野菜の繊維を断ち切るようにしましょう。根菜などは小さく切ったり、隠し包丁を入れておいたりすると食べやすくなります。
例えば、厚みのある肉を使ってとんかつをつくるのではなく、薄切り肉を重ねてミルフィーユ状にして厚みを出すのが食べやすくするポイントです。ゆで卵でムセてしまうときは、細かく刻んでマヨネーズで和えるなど、工夫してみてください。
高齢者の食事づくりで悩んだときの対処法
毎日の食事づくりは必ずしもうまくいくとは限りません。完璧につくることを目指すのではなく、ベターを目指して食事と向き合うことが大切です。最後に献立づくりで悩んだときの対処法についてご紹介します。
つくっても食べてくれない
高齢になると運動量が少なくなり、基礎代謝も低下します。空腹感が得にくくなり、食事量も減少しがちです。
たくさん食べられないときは食事の回数を増やしたり、間食を活用したりして1日で栄養が摂れるように意識すると良いでしょう。食べる意欲を引き出すために、おいしそうに盛り付けることもポイントです。
また、食べ慣れた味付けを好む方もいるため、なじみのある味付けのものを中心に献立を組み立てるのもひとつの方法です。
献立を立ててもつくりたくないときがある
忙しくて食事をつくる余裕がない、疲れて食事をつくりたくないというときは、つくり置きを活用すると便利です。
時間があるときにつくり置きをしておくと、料理をつくりたくないときでもサッと準備できます。ただし、つくり置きをするときは、衛生面に注意が必要です。料理を冷ましてから清潔な保存容器に入れて、冷蔵庫に保管しましょう。
野菜が少なくなってしまう
咀嚼力・嚥下力が低下すると、硬いものや繊維が多いものが食べにくくなります。小さめに切ったり、軟らかく煮たりするなど、食べやすいように工夫しましょう。トマトやナスなどは皮をむいてから調理するのもおすすめです。
また、加熱調理すると野菜のカサが減り、少ない量でもしっかり野菜が摂れるようになります。生野菜サラダよりもお浸しや和え物などにすると摂取量アップが期待できます。
食事の多様性や食行動が高齢者に与える影響
高齢になると咀嚼力や嚥下力が低下しやすくなるので、献立づくりにも工夫が必要です。食欲がわく見た目や、飽きずに食べられるようにバリエーションを増やしてみるのもおすすめです。
得意料理の味付けや食材を変えたり、風味豊かな食材を追加したりするだけでも料理の印象は変わります。ただし、高齢者は食欲が低下しやすく、つくっても食べてもらえないときがあるかもしれません。そんなときは、食べ慣れた味付けに戻してみたり、食事の回数を増やしてみたりするなど、臨機応変に対応しましょう。
【参考資料】
「中高年における食事の多様性と晩年に障害を引き起こす認知症のリスク」CLINICAL NUTORITON(2024/1/22)
「たんぱく質」厚生労働省e-ヘルスネット(2024/1/22)
「カルシウム」厚生労働省e-ヘルスネット(2024/1/22)
「食物繊維」厚生労働省e-ヘルスネット(2024/1/22)