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第491回

❝差額ベッド代❞は支払わなくていいケースも?入院時の注意事項や相場、仕組みを解説

最終更新日時 2024/10/31
#介護にかかるお金
目 次

入院時に思わぬ出費となりうる❝差額ベッド代❞。これは病院で個室や特別な設備のある部屋を利用した際に発生する追加料金のことですが、希望していないにも関わらず支払うことになってしまった、というケースもあります。一日当たりの差額はわずかでも、入院日数が長引けば家計を圧迫することにもなりかねません。そこで、この記事では、差額ベッド代について知っておくべき重要なポイントを解説します。支払いが必要なケース、不要なケース、そして困ったときの対処法まで、詳しくご紹介します。

そもそも❝差額ベッド代❞とは?

差額ベッド代の定義と特別療養環境室の条件

差額ベッド代とは、病院で個室や特別な設備のある部屋を利用した際に発生する追加料金のことです。

正式には「特別療養環境室料」と呼ばれ、公的医療保険の対象外となるため、全額自己負担となります。一般病院の全病床の50%、公立病院ではこの割合が30%以下に制限されています。

特別療養環境室として認められるためには、厚生労働省が定める以下の4条件を満たす必要があります。これらの条件を満たす部屋は、患者により良い療養環境を提供するものとして、差額ベッド代の請求対象となります。

特別療養環境室の条件

  • 病室の病床数が4床以下
  • 病室の面積が1人当たり6.4平方メートル以上
  • 病床ごとにプライバシーを確保するための設備を備えている
  • 個人用の私物の収納設備、照明、小机等及び椅子を有している

差額ベッド代が発生する病室の種類と特徴

「差額ベッド代が発生する病室」というと一般的には個室をイメージされることが多いかもしれませんが、実際には個室のほか、2人部屋、3人部屋、4人部屋の場合もあります。

また、温泉付きの部屋や特別な医療機器が設置された部屋など、特殊な設備がある場合も差額ベッド代の対象となることがあります。

これらの病室は、患者の希望や病状に応じて選択されることが多いですが、病院の空き状況によっては、希望しても入れない場合もあります。逆もまた然りであり、希望していなくても利用が必須のケースもあります(後述します)。

差額ベッド代の全国平均相場

差額ベッド代の金額は病院や地域によって大きく異なりますが、厚生労働省の調査によると、全国平均での1日あたりの差額ベッド代は以下のようになっています。

全国の差額ベッド代の割合

これらの金額は平均値であり、実際には都市部の大病院では1日2万円を超える個室もあれば、地方の小規模病院では5,000円程度の個室もあります。また、同じ病院内でも部屋の広さや設備によって料金が異なることがあります。

ですが、長期入院の場合、差額ベッド代が大きな負担になる可能性があります。例えば、1日7,837円の個室に30日間入院した場合、差額ベッド代だけで235,110円かかることになります。

入院する際は、事前に病院に確認し、経済状況に合わせて選択することが重要です。

差額ベッド代を支払う必要がある3つのケース

差額ベッド代を支払う必要がある主なケースは以下の3つです。

1. 患者本人が希望して個室や特別室を利用した場合

プライバシーを重視したい、静かな環境で療養したいなどの理由で、患者自身が個室を希望した場合は、差額ベッド代を支払う必要があります。

例えば、仕事の都合で電話やパソコンを使用する必要がある場合や、家族と落ち着いて過ごしたい場合などが該当します。

2. 病院から説明を受け、同意書にサインした場合

入院時に病院側から差額ベッド代について説明を受け、内容を理解した上で同意書にサインした場合は、原則として支払いの義務が生じます。

画像提供:photo AC

ただし、緊急時や判断能力が低下している状況では、十分な説明や同意が得られないまま個室に入院してしまうケースもあるでしょう。そのような場合は、後述する「支払う必要がないケース」に該当する可能性があります。

3. 他の患者への配慮が必要な場合(ただし、患者の同意が必要)

例えば、いびきがひどく他の患者の睡眠を妨げる可能性がある場合や、認知症の症状で徘徊や大声を出す可能性がある場合など、他の患者への配慮が必要な際に、病院側から個室の利用を提案され、患者や家族が同意した場合は支払いが必要となります。

このケースでも、患者や家族の意思による選択が前提となります。ただし、2と同じく後述する「支払う必要がないケース」に該当する可能性もあります。

差額ベッド代を支払う必要がない3つのケース

一方、以下の3つのケースでは、差額ベッド代を支払う必要がありません。

1. 治療上の必要性から個室や特別室に入院した場合

厚生労働省の通知によると、以下のように治療上の必要性がある場合は差額ベッド代を請求してはならないとされています。

  • 救急患者、術後患者等で、病状が重篤なため安静が必要な場合
  • 常時監視が必要で、適時適切な看護及び介助を必要とする場合
  • 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
  • 集中治療の実施が必要な場合
  • 終末期で著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要がある場合

2. 病院の都合で個室や特別室に案内された場合

大部屋に空きがなく、やむを得ず個室に案内された場合や、病棟の改装工事のために一時的に個室を使用する場合などは、差額ベッド代を請求することはできません。

このような場合、病院側から「病院の都合で個室を使用していただいています」という説明があるはずです。

3. 患者や家族に十分な説明がなく、同意が得られていない場合

病院側が差額ベッド代について十分な説明をせず、患者や家族の同意を得ないまま個室や特別室に入院させた場合は、差額ベッド代を請求することはできません。

例えば、緊急入院時に混乱して同意書にサインしてしまったが、実際には差額ベッド代の説明を受けていなかったような場合が該当します。

これらのケースでは、たとえ個室や特別室を利用していても、差額ベッド代を支払う必要はありません。しかし、実際には病院側から請求されるケースもあるため、患者や家族は自身の権利を理解し、必要に応じて病院側と交渉することが重要です。

事例:救急搬送後、説明なく差額ベッド代を請求された

74歳のBさんが高熱で救急搬送され、緊急入院となりました。夫であるAさんは入院時、慌ただしく数枚の書類にサインをしましたが、差額ベッド代についての説明は受けていませんでした。

5日間の入院後、退院時に合計10万円近くの差額ベッド代を請求され、Aさんは驚愕してしまいました。

この事例には、以下のような問題点があります。

  • 救急搬送時の緊急性がある状況で、十分な説明がなされていない
  • 差額ベッド代について口頭での説明がないまま、同意書にサインさせている
  • 患者や家族の自由な選択の機会が与えられていない

このような場合、以下のような解決策が考えられます。

まず、病院側に説明不足を指摘し、差額ベッド代の請求の妥当性を確認します。

次に、「特別療養環境室の設備構造、料金等についての明確な説明がないまま、同意書に署名させられていた場合」は不適切な同意の取り方であるとの解釈が示されている厚生労働省の事務連絡(2018年7月20日付)を根拠に、病院側と交渉することが可能です。

この事例から学べる重要なポイントは以下の通りです。

  • 入院時は落ち着いて説明を聞き、不明点があればその場で質問する
  • 同意書にサインする前に、内容をよく確認する
  • 緊急時や判断能力が低下している状況では、後日改めて説明を求める権利がある
  • 差額ベッド代について疑問がある場合は、遠慮なく病院側に確認や交渉を行う

差額ベッド代の支払いに困ったときの対処法

上記では支払い不要のケースについて解説しましたが、「やはり支払いの必要はありそうだが、現実的に難しい」という方もいらっしゃるかもしれません。その場合、どのように対処すればよいでしょうか。

病院との交渉

差額ベッド代の支払いに困った場合、まずは病院と交渉することが重要です。交渉の際は、冷静に状況を説明し、経済状況を正直に伝えましょう。感情的にならず、なぜ支払いが困難なのか、具体的に説明することが大切です。

例えば、「現在の収入状況では一括での支払いが困難です。他の医療費負担も含めて、月々の支払い可能額は○○円程度です」といった具体的な提案をすることで、病院側も対応を検討しやすくなります。

分割払いについては、多くの病院で柔軟に対応してくれる可能性があります。3ヵ月や6ヵ月などの期間で分割して支払う方法や、毎月の支払い額に上限を設定する方法などを提案してみましょう。

ただし、分割払いの場合は利息がかかることがあるので、その点も確認しておく必要があります。また、分割払いの期間中に別の入院や治療が必要になった場合の対応についても、事前に確認しておくとよいでしょう。

交渉の内容は必ず文書で記録し、双方で確認するようにしましょう。これにより、後々のトラブルを防ぐことができます。

公的相談窓口の活用:専門家のアドバイスを受ける方法

病院との交渉がうまくいかない場合や、より専門的なアドバイスが必要な場合は、公的な相談窓口を利用することをおすすめします。主な窓口として、医療安全支援センター、国民健康保険団体連合会、各病院の患者相談窓口などがあります。

画像提供:写真AC

例えば、東京都の場合、以下のような相談窓口があります。

東京都医療安全支援センター「患者の声相談窓口」

電話:03-5320-4435(平日9時~12時、13時~17時)

また、NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)のような、患者の権利擁護を行う団体に相談するのも有効です。COMLでは以下の電話相談を行っています。

COML電話医療相談

電話:03-3830-0644

(月・水・金 10:00~13:00、14:00~17:00/土 10:00~13:00)

これらの窓口を利用する際は、事前に相談内容を整理し、関連する書類(請求書や同意書のコピーなど)を用意しておくと、より具体的なアドバイスを受けられます。

まとめ

差額ベッド代について、その仕組みから支払いが必要なケース、不要なケース、そして困ったときの対処法まで詳しく見てきました。

高齢者の介護をする中で、入院は避けて通れない問題です。この記事の情報を参考に、患者と家族にとって最適な選択ができるよう、準備を進めていただければ幸いです。

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