地域包括支援センターでは、さまざまな課題を抱える高齢者や、そのご家族と接する機会が多くありますが、最近増えているのが身寄りのない一人暮らし高齢者です。
私が担当する千葉県内房地域では65歳以上高齢者の約1割に当たる500人ほどが一人暮らしをしています。
配偶者が亡くなり一人暮らしとなった方、結婚歴がなく親兄弟もすでに亡くなってしまっている方など、事情はさまざまですが、課題を抱えながらも生活を続けています。
こうした高齢者に対しては、メンタルに対する配慮が特に重要となってきます。
妄想性障がいの原因となる孤独
最近、顕著なのが、夫を亡くして独居生活となった妻が孤独感から妄想性障がいを発症する例です。
個人差はありましたが、ここ数年で5件ほど妄想性障がいと思われる症状を呈する女性の相談に対応しました。それらの事例に共通していたのは以下のような点でした。
- 自宅や敷地内に隣人や知らない人が入ってくるという妄想
- 他人が自宅に衣類や下着を置いていくという妄想(それらの品物を風呂敷に入れて管理し見せてくれる)
- 自宅から物を持っていかれるという妄想
- 防犯カメラを複数台設置している
特に②の妄想はほぼ全員の方に見られ、皆さんが風呂敷にそれらの衣類を分けて保存していました。また、防犯カメラは1台設置後、何も怪しい人物が映っていないと2台3台と増設する傾向もありました。
このような方に対しては、まず置かれている状況について丁寧にヒアリングを行い信頼関係を構築したうえで、専門医につなげるために活動します。メンタルに対する課題に関して、専門医とのかかわりは非常に重要だからです。
本人やご家族の同意を受けたうえで、専門医に事前情報をお伝えして初回受診につなげます。そして、専門医のカウンセリングを受けながら服薬治療を開始します。
数回受診したところで「自分は何も悪いところがないから」と拒否するケースもありますが、その後施設に入所するなどの状況変化が生じたときのため、継続して受診させることが大切になります。
施設入所後、不穏状態となったときに受診歴のある専門医に相談受診を行い、カウンセリングや服薬コントロールをすることで落ち着いて生活できるようになることが多いからです。
実際に、5名のうち2名は特別養護老人ホームや小規模多機能型居宅介護に入所し、落ち着いた生活を送っています。特に、小規模多機能型居宅介護は「通い」「訪問」「宿泊」を総合的にカバーできるため、非常に有効です。
この2名の高齢者については、デイサービスを利用して自宅で過ごす時間を減らすことで、「物が盗られた」「侵入者がいる」という訴えを受けることは減りました。
落ち着いた生活が送れていれば、帰宅願望が強まったときに、いったん自宅に戻り、訪問支援で食事や見守りのサービスを受けて過ごすこともできます。
場合によっては自宅に1泊し、翌日通いのサービスを契機に事業所に戻って、再び宿泊サービスを利用するなど状況に応じた対応も可能です。
ペットを飼うことで症状が緩和する場合もある
私が印象に残っているのは、遠くに住んでいた子どもが小型犬を連れて高齢の親との生活を開始したケースです。
この高齢女性は、深夜や早朝に敷地内に近隣住民が侵入してくるという妄想に苛まれていましたが、ご家族が室内犬を連れてきてくれたことにより状況が一変しました。
もちろん餌の購入や犬のワクチン接種などの対応はご家族が支援していますが、それ以外の世話は本人が対応しました。
その結果「夜に人の気配がしても、この子が吠えて追い払ってくれるから安心できる」といった発言が聞かれ、週1回だったデイサービスの利用を2回に増やしたいというポジティブな発言もされるようになりました。ご家族の機転が状況を変えたのです。
このケースからも、妄想性障がいの症状が発症する要因として「孤独」が大きな要因となっているのではないかと推測できます。
一人で生活するストレスや孤独感が妄想の要因なのであれば、可能な範囲でペットと生活したり、デイサービスを利用するなど、一人の時間を減らすことが効果的ではないでしょうか。
つまり、社会とのつながりを強化することが大変有益だと思います。

うつ病の方の兆候をいち早く察知しよう
一人暮らしをしている高齢者は、うつ病にも注意が必要です。うつ病は自殺を引き起こす大きな要因ともなり、特に注意が必要です。例えば、以下のような方がそばにいたら、気にかけてみましょう。
- うつ病の症状を気にかけている
- 原因不明の身体の不調が長引く
- 酒量が増える
- 安全や健康が保てない
- 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
- 職場や家庭でサポートが得られない
- 本人にとって価値あるものを失う
- 重症の身体の病気にかかる
- 自殺を口にする
- 自殺未遂に及ぶ
上記は、「自殺予防の十箇条」として知られていますが、その中でも次のような症状がみられる場合は特に注意が必要です。
- 最近眠れない
- 食欲がない
- 外出する気力がない
- これまで興味があったことに興味がなくなっている
- 自分が役に立つ人間だと思えなくなっている
- 人とのかかわりが億劫になっている
多くの自殺念慮のある方は「生きていることが辛い」などと心情を吐露してくれます。ですから、私たちは「生きてほしい」というメッセージを懸命にお伝えし、自ら命を絶ちたくなるような状況の改善に力を尽くします。
しかし、残念ながら兆候がまったくなく、気づかぬうちに…というケースもあります。たとえ兆候がなくとも、あらゆる世代に自死の可能性があることを意識しておくことが大切です。
もし身近に上記のような兆候がある方がいたら、なぜそう考えるのかをじっくりと聴いてあげてください。そして「生きてほしい」というメッセージをしっかりと伝えてほしいと思います。
また、そういった方がおられましたら一刻も早く専門医につなげることがとても重要です。

孤独は、高齢者ばかりでなく、あらゆる方に影を落とします。
地域包括支援センターは、日々の活動の中で地域社会や福祉サービスとのかかわりをコーディネートし、少しでも多くの方が孤独から抜け出して地域で生活していただけるよう頑張っています。