こんにちは、遠距離介護のケアミーツ代表の安並ちえ子です。
私は看護師・ケアマネ・遠距離介護家族、この3つの立場から17年もの間、片道1,200㎞(東京—長崎)の遠距離介護をしてきました。
介護の教科書では、だれよりも遠距離介護家族に近い気持ちで皆さんを応援していきたいと思っております。
今回は、「親が入居する有料老人ホーム選び」についてです。離れて暮らす親の介護。「できれば最期の時間を自宅で過ごさせてあげたい」というご家族の気持ちがあっても、介護度が重くなってくるとひとり暮らしを続けることは難しくなります。
親が自宅での一人暮らしの限界を迎えたとき、選択肢の一つとなるのが有料老人ホームへの入居ではないでしょうか。
ではどうやって希望する施設を選べば良いのか?実際の父・娘の事例をご紹介しながらお話したいと思います。
この事例に登場する父娘は、3回の体験入居を経て、ようやく納得する施設への入居に至りました。今回は、施設選びを始めるところから体験入居の段階までについてお話ししたいと思います。
老人ホーム選びは誰だって初心者 焦らず状況を整理しましょう!
老人ホーム探しは初めは誰だって初心者です。「うちの親も、そろそろ老人ホームを考えたほうがい良いか…」と気になっていても、探し始めるタイミングがつかめずに、先伸ばしになっている方も多いのではないでしょうか。
老人ホーム選びは、親にとっても子にとっても、絶対に失敗したくない大切な問題ですね。親は、かけがえのない一日一日をその施設で過ごします。できるだけ納得できる施設を選びたいものです。
「親には毎日を笑顔で過ごしてほしいし、息子・娘だって安心して過ごしたい」。老人ホーム選びはそんな大切な選択なのに、ほとんどの場合、誰もが初めての経験ですし、人生にそう何度もあることではありません。親も子も、みんな初心者なのです。
この事例に登場する父と娘にとっても、老人ホーム探しは、もちろん初めての経験です。
- 親に切り出すタイミングは?
- どうやって探したら良い?
という最初の一歩から始め、施設の見学・体験入居と進めていき、親子で悩みながら、そして手探りをしながら入居する施設を決めました。
親の老人ホーム入居を考える始めるタイミングとは
老人ホームの入居を考える際には、以下の2つの視点で考えるとわかりやすくなります。
- 親が一人で安全に過ごせるか?
- 家族がどこまで手伝えるか?
介護施設に入居するかしないかで悩んだ際に考えるべき1つ目の視点は、「親が一人で安全に過ごせるか?」。2つ目の視点は、「家族がどこまで手伝えるか?」です。
例えば、階段の登り下りに不安がある、お風呂で転んでしまうことがあるなどの理由で安全面の心配があったり、仕事をしながら親のサポートをするのが体力的に厳しい、買い物に行くと迷子になる恐れがあり家族が常に同行しなければいけないなど、家族の生活に支障が出る場合ですね。
親が自力で安全に暮らせなくなり、そばで見守る人がいないのなら、それが施設入居のタイミングだと私は思います。ただ、親に施設で暮らしてもらうことに対しては、「後ろめたい」と考えるご家族もまだまだ多いようです。
しかし、親が施設に入居するのは「後ろめたいこと」でしょうか?大事な親御さんの暮らしが、“安全でない”、“命の危険が多い”ことの方が、よほど後ろめたくありませんか?
「親を施設に入れるのは申し訳ない」という気持ちは、実は、親にとって自分がどういう息子・娘でありたいかという息子・娘の気持ちであって、「親にとって何が最善か」という視点ではない場合も多いのではないでしょうか。そんな「後ろめたい気持ち」と折り合いをつけるには、考え方を整理してみることです。
考え方のポイントは、「親と家族にとって、最善策とは何か?」です。家族の事情はさまざまですし、他の家族と比べることなんてできません。親の判断能力の有無(認知症など)・介護度・家族関係・経済状況など、家族によってそれぞれ異なる事情を抱えています。「うちの場合はどうだろうか?」と考えてみましょう。
親と家族の両方にとって最善の策を考えた結果の決断であれば、それが一番の親孝行ではないでしょうか。ぜひその決断に自信を持ってください。
老人ホームに入るか?入らないか? 親の悩み・子の悩み
「住み慣れた自宅で可能な限り暮らし続けたい」。そう願う親の気持ちはよくわかります。とはいえ、現実はシビアです。
介護度が重くなり、生活が不自由になるにつれて自宅暮らしは困難になっていきます。どんなに訪問介護を増やしたとしても、自宅で一人きりになる時間をゼロにはできません。
特に、トイレの始末が一人でできなくなってくると、いよいよ一人暮らしも限界に近づきます。一人きりになることが多い夜間帯にトイレの失敗をしても、ケアしてくれる人はそばにいません。転倒しても、自分で通報しない限り、だれも気づいてはくれません。そんな綱渡りの生活では、お互いに不安とストレスが積み重なっていきます。
遠方に暮らしているとすぐにかけつけることもできませんし、様子がわからない分なおさら不安です。一方、親の気持ちはどうでしょう?「老人ホームには絶対入らない!」という言動の裏にある、老人ホームに対するマイナスイメージが影響している可能性を考えてみましょう。その他にも以下のような心境が考えられます。
- 知らない場所に馴染めるだろうか?
- 他人と一緒に暮らせるだろうか?
- 周りに気を使って生活するなんて嫌だ
というように、自分自身の不安な気持ちが原因である場合があるのではないでしょうか。日頃からの親の言動と、その裏に隠された本当の気持ちは、必ずしも同じではない場合もあるのです。
実は、一人暮らしの限界を一番感じているのは親本人かもしれません。「老人ホームは嫌だ」という表面的な言葉にとらわれず、心の声に耳を澄まして、親の不安な気持ちに耳を傾け、親と子の両方が納得する着地点を一緒に探すようにしたいものです。
今回ご紹介する父と娘も、老人ホーム探しを始める前は、こんな不安を抱えていました。
- 施設入居を考えるときの“父”の不安
-
- 家で孤独死したらどうしよう?
- 施設に入ると自由がきかなくなるのでは?
- 施設に馴染めるだろうか?
- 施設に入ったら二度と家に戻れないのでは?
- 他人に気を使って暮らすのは嫌だ
- 施設入居を考えるときの“娘”の不安
-
- 持病も多いし、寝タバコの焦げ跡も多くなった。もう一人暮らしは危険
- 尿や便の失敗も多くなってきたのに、この先どうすれば良いのか?
- 頑固な父が施設入居を受け入れるだろうか?
- 父が施設に馴染めるだろうか?
- 家に帰りたいと言われたらどうしよう?
- 予算に見合う施設が探せるだろうか?
施設入居の話を切り出すタイミング
そんな中、施設探しのきっかけになったのは、遠距離介護での往復に体力的限界を感じていた娘さんが、恐る恐る言ってみた一言です。
娘:今のままだとお父さんのことが心配。今後に備えて、そろそろ、老人ホームの見学をしてみない?
父:老人ホームか…。年金で入れるところがあるのかな?できれば家の近くがいいなぁ
娘:ほんと?じゃあ、早速、探してみるね!
娘さんは、あっさり受け入れたお父さんの反応に、むしろ拍子抜けしたそうです。「きっと断固拒否だろうな…」と半ば諦めていたそうで、「プライドの高い父が施設見学を受け入れるなんて思ってもみなかった…。言ってみるものね!」と言っていました。
このお父さんの介護度は要介護1。一人暮らしの限界を迎えるずっと前の段階です。認知症はありません。それでも施設探しを受け入れたのは、「施設は嫌だ」という表向きの態度とは裏腹に、心の中では一人暮らしの不安を抱えていたからではないかと思います。
施設入居の話を切り出すタイミングのおすすめは…
- 本人も一人暮らしを不安に感じている
- 具体的に生活の不自由が多くなっている
この2つの条件が重なったときが良いと感じます。深刻な事態を迎えるずっと前に、こうしたタイミングがきっとあるはずです。その際には、「施設が嫌だ」という、親の表面的な言葉にとらわれず、心をひらいて向き合ってみることをおすすめします。お互いに気持ちを探り合ってばかりで切り出せないまま問題を先延ばしするよりも、思い切って言葉に出してみたほうが近道になることもよくあるので、ぜひ勇気を出してみてください。
お互いの気持ちを確認して条件を絞りこもう
施設探しにおいても、親と子の双方の気持ちを明確にしておくことは大切です。(第1回「自分の生活を捨てなくても大丈夫!17年間の遠距離介護経験者が教える「いざ介護が始まったら困ること」)参照
- 親の希望を知っておく
- 親のお金を知っておく
- 兄弟姉妹の希望を知っておく
- 自分はどうしたいか正直に考える
- 親の希望
- タバコが吸えて、お酒が飲めて、自由に外出ができて、束縛されない施設が良い
- 親のお金
- 預貯金と年金で有料老人ホームの利用料がまかなえる
- 兄弟姉妹の希望
- 一人娘なので、調整は不要
- 自分はどうしたいのか(今回のケースでは娘の希望)
- 持病が多いので、医療面でも安心して任せられるところがよい。同じ介護度くらい(軽度)のお仲間がいる施設がよい。
ここまではOK。意思確認もバッチリです。実際にはもっと細かく希望を書き出して条件を絞り込みます。施設探しの方法は、
- インターネットで資料を取りよせ、直接問い合わせる
- 紹介センター(仲介業者)を利用する
- ケアマネや知人に紹介してもらう
などさまざまですが、手数料はほとんどの方法が無料で使えます。
施設を探すにあたっては、条件はできるだけ具体的に伝えることが重要です。できれば紙に書き出しておき、誤解なく伝わるように準備しておくことをおすすめします。
この父・娘のケースでは、仲介業者さんを利用しました。条件に合う施設のピックアップや見学の予約、施設までの送迎をやっていただけるので便利です。仲介業者さんによって取り扱う施設のバリエーションも変わるので、条件が合わない場合には仲介業者さんを変えてみるのも手かもしれません。
まずは家族だけで下見をしてみよう
施設選びから入居までの大まかな手順は、
- ①施設のピックアップ
- ②見学・面談
- ③体験入居(可能なら)
- ④契約
という流れです。まずは家族だけで事前に下見をし、候補施設を絞りこんでおくのがおすすめです。家族の目から見て、「親が気に入る可能性が高い」と思える施設だけに絞るのです。もちろん、親から聞いておいた条件は大事な判断ポイントにしましょう。
家族だけで下見するメリットは、
- 親を疲れさせない
- 親をがっかりさせない
- 施設の担当者と、親の前では話しにくい話ができる
- 施設の周辺を歩いたりして、環境をチェックできる
などがあります。見学は予約してから行きましょう。昼食の時間帯を予約し、できれば試食もさせてもらうと、食事が親の口にあうかどうかがわかります。また、昼食時に見学することで、食堂に集まる入居者の顔ぶれがわかり、食事ケアの様子も確認できるので一石二鳥です。
この父・娘のケースでは、1日で2〜3施設ほど見学しました。そして、条件に一番合う施設をお父さんに見学してもらい、後日、体験入居をしてもらいました。体験入居をしてみると予想外のさまざまな問題が出てきました。実際に暮らしてみると、見学だけではわからなかったトラブルがいろいろ出てくるものです。
- 1施設目:体験入居→却下
- 2施設目:体験入居→契約→クーリングオフ期間中に契約解除
- 3施設目:体験入居→契約→現在も笑顔で入居中
という結果となりました。最終的に、3施設目の体験入居で父・娘とも納得できる施設に巡り会えました。
3回の体験入居でどんな問題が出て、どのように対応したのか。父娘の間に、どのような葛藤や妥協があり、問題を解決していったのか。そして、どうやって父娘とも納得できる施設に巡り会えたのか。実際の様子については、次回ご紹介したいと思います。
大丈夫!なんとかなりますよ!