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ニッポンの介護学

第195回 データヘルス計画は医療費の削減につながるか。保険者の財政状況によっては“健康寿命の差”が生じる懸念も…

我が国の国民皆保険制度は必要なときに必要な医療を受けられる「フリーアクセス」を可能にし、平均寿命を世界トップレベルの水準にまで引き上げました。高度成長期の高齢者人口は少なく、生産年齢人口が大半を占める人口ピラミッドであったため、国民皆保険制度であってもある程度の保険料収入が期待でき、大きな問題は生じていませんでした。

しかし、現在のような超高齢化社会では、高齢者の医療費が膨大で、国民皆保険制度の持続可能性が疑われかねない事態にまで発展しています。また、現役世代においては、高ストレスや脂質をふんだんに含む食品の摂取などによって生活習慣病の罹患率が増加しており、なかには長期療養を余儀なくされる人もいます。

死因に占める生活習慣病の割合
  悪性新生物(28.8%)
  心疾患(15.5%)
  脳血管疾患(9.3%)
  糖尿病(1.1%)
  高血圧性疾患(0.6%)
  その他(44.7%)
28.8%15.5%44.7%9.3%
 
出典:厚生労働省

 

こうした傾向にあるなか、医療費の適正化を意図したさまざまな政策が実行されています。現在、政府が行っている「データヘルス計画」もその一環です。

医療保険加入者のデータを分析し、適切な保健事業を実施

データヘルスとは、平たく言えばデータ分析に基づく保健事業のこと。保健事業とは、医療保険加入者の疾病予防や早期発見、健康づくりを支援する教育、相談、保健知識を広めるPR活動などを保険者(大企業勤務者を主体とする健康保険組合のほか中小企業勤務者が中心の協会けんぽ、市町村が運営する国民健康保険などがある)が行い、日々の健康増進を支援するものです。

厚生労働省による保健事業の公開・効率を上げる構造

これまで保険者は、その種別を問わず一律の保健事業を行ってきました。本来、加入者の属性によって保健事業の内容は変更されるべきですが、加入者のデータが整備されておらず、どのような施策を講じるべきか決めあぐねていたからです。現役世代が多い健康保険組合と高齢者がメインとなる国民健康保険では、自ずと講じるべき保健事業の内容は異なってきます。

加入者の健康意識の向上や医療費の適正化に役立つ保健事業ですが、加入者の特性に応じた施策を立案、実行しないと意味がありません。近年、加入者に関するさまざまなデータが揃ってきたことにより、より効果のある施策を立案できる体制が整いました。

医療データの電子化により、加入者個々の健康状態を把握する

政府が昨年6月の閣議で決定した「日本再興戦略」。このなかに、「データヘルス計画」が盛り込まれました。この背景には「医療情報の電子化の進展」があります。ICT化の推進によって、医療保険に関するさまざまなデータが電子化され、簡単に利用できるようになった今、保険加入者の健康保持増進のためにこの計画が推進されています。

例えば、特定健康診断(糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の危険度を診断したもの)の結果。これは、すでにデータが統一化され、いつでも利用できるようになりました。また、レセプト(診療報酬明細書)情報も約9割が電子化されています。

厚生労働省によるデータヘルスの発想

これにより、従来は困難だった多くのデータに基づく医療費の内容や傾向の分析が可能になり、医療費のデータと特定健康診断のデータを突き合わせることによって、加入者個々の健康状態の変化なども把握できるようになりました。

保険者が独自に施策を立案し「データヘルス計画」を推進

2014年度中に「データヘルス計画」を策定した健康保険組合では、翌2015年度から事業に取り組んでいます。

データヘルス計画で取り組むこと

ここで、「データヘルス計画」の実例を紹介します。大和証券グループ健康保険組合は、20歳代を含め被保険者全員へ健康意識の醸成を図る「ポピュレーションアプローチ」を採用し、肥満率の引き下げに成功しています。特定健康診断をデータ分析したところ、医療費の上位3疾患は生活習慣病であること、そして生活習慣病のリスクを持っている被保険者は約4割に上ることなどから、肥満率の引き下げが喫緊の課題となったわけです。そこで、健康支援サイトを導入し、以前から行っていた紙媒体での周知だけでなく、生活習慣病のポイントなどの解説をWEBで閲覧できるようにしました。

また、ウォーキングをはじめとした各種健康イベントを開催するなどして、被保険者個々人の健康意識を徐々に高めていきました。その結果、40〜60歳のグループ社員のデータを改めて分析したところ、約3%肥満率が改善しました。生活習慣病は、いったん罹患すると長期の治療を余儀なくされることから医療費の増大に影響が大きいため、この取り組みが評価されているわけです。

比較的財政が健全である健康保険組合の一方で、中小企業が加入する協会けんぽは財政がひっ迫しており、病気にかかる人を減らす取り組みととともに後発医薬品の使用促進にも注力しています。薬価の低い後発医薬品が普及すれば、保険者の保険料負担が抑えられるだけでなく、被保険者の窓口負担の軽減にもつながります。課題は、後発医薬品の周知。この課題に対し、協会けんぽは下記の3つの施策を講じ対処しています。

  • ジェネリック医薬品軽減通知
  • 2011年には約84万人に対し、ジェネリック医薬品(新薬の特許が切れ、メーカー問わず製造できる薬のこと。一般的に新薬と効果や安全性、含量などは変わらない)がによる自己負担額の軽減について通知。2012年度には約96万人に通知対象を拡大し、ジェネリック医薬品への切り替えを促している。。

  • ジェネリック医薬品希望シール
  • 保険者やお薬手帳に貼り付けて使用できる「ジェネリック医薬品希望シール」を作成し、被保険者に配布。

  • セミナーの開催
  • 「ジェネリック医薬品の使用促進に関するセミナー」を開催。北海道や秋田県、福島県などでは地元の薬剤師会などと連携してセミナーを行い、ジェネリック医薬品使用促進の環境づくりに注力している。

この取り組みにより、被保険者のうち約4割がジェネリック医薬品に切り替え、4年間で約174億円(推計値。2009〜2013年)の医療費削減に成功しています。蓄積されたデータにより、ジェネリック医薬品に切り替えていない被保険者を特定、個々人に応じた適切なアプローチを行うことも可能になりました。協会けんぽの被保険者は、約2千万人にも上っており、的確なデータ分析アプローチができれば、医療費の適正化に大きく貢献するものと見られます。

「ジェネリック医薬品軽減額通知サービス事業」の効果額の推移

  通知対象条件 コスト 通知対象者数 軽減効果人数 軽減額/月 軽減額/年
2009年度 40歳以上の加入者
軽減効果額200円以上
約7.5億円 145.3万人 38万人 約5.8億円 約69.6億円
2010年度 35歳以上の加入者
軽減効果額300円以上
※前年度送付者は除く
約4.7億円 54.9万人 11万人 約1.4億円 約16.8億円
2011年度 35歳以上の加入者
軽減効果額300円以上
※前年度送付者は除く
※1回目通知で切替なかった者、またはまだ切替が見込める者に対して2回目を実施
約5.0億円 【1回目】
84万人
20万人 約2.5億円 約30.0億円
【2回目】
21万人
5.3万人 約0.78億円 約9.3億円
2012年度 35歳以上の加入者
軽減効果額
【1回目】
医科:400円以上、調剤200円以上
【2回目】医科400円以上、調剤400円以上
※前年度送付者は除く
※1回目通知で切替なかった者、または切替が見込める者に対して2回目通知を実施。
約4.8億円 【1回目】
96万人
約24万人 約3.1億円 約37.2億円
【2回目】
27万人
27万人 約0.9億円 約10.8億円
出典:厚生労働省

保険者は独自性を競いながら、保健事業を実施する時代に

特定健康診断やレセプトの電子化に伴い、加入者の健康状態を把握することが可能になってきたものの、「データヘルス計画」に基づき、保健事業を実施している保険者はほんの一部に過ぎません。大企業を主体とした健康保険組合は、財政に比較的余裕があるため、保健事業を実施する余力を有していますが、被保険者の多くが高齢者である国民健康保険の場合は、そうもいきません。どの健康保険組合に加入しているかによって、健康状態に差が生じかねず、健康格差を懸念する声も上がっています。

平成26年度から平成29年度のスケジュール

上記の表の通り、来年度には「データヘルス計画」の第一期が終了する予定。これまで政府の指導のもと、一律の保健事業を実施してきた健康保険組合でしたが、今後は独自性を競いながら、医療費の適正化を目指すことになります。現役時代の健康づくりが、ゆくゆくは健康寿命を延ばすことにつながり、しいては高齢期の医療費削減につながることも示唆されており、国民皆保険制度の維持に「データヘルス計画」が果たす役割は大きいと言えそうです。

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匿名
匿名 さん

みんなのコメント

  • 匿名 さん

こんな簡単なデータのやり取りで行えるような事を、なぜ今までできなかったのか?
医師会などの権威団体が反対していたからです。
己が利益を優先するために、誤魔化してきた。
医療費の高騰で国の財源も枯渇してきて、医療診療報酬減にまで及んできた事で、半ば妥協のような形で行う事を容認した。
これらが真相のようです。
あとは、締め付けを行うのは、製薬会社と医療用機器会社などです。

2016/12/26 13:58 違反報告
  • 匿名 さん

医療介護機器は利益の温床ですが人脈で動いていますので中間利益が大きいほど周りから支持されます。それに税金ですから・・もし、自腹で買う場合は当たり前ですが1/10〜1/5ぐらいが目安です。

2016/12/22 22:50 違反報告
  • 匿名 さん

高齢化や生活習慣病の増加に伴い、公的保険の負担額は増えて行きます。
しかし、製薬会社や医療機器などは需要が増して、極端に言うと薄利多売でも充分に利益が出るはずです。
これらの医療や介護などもそうだが、もうけ過ぎ?なのでは。
コストカットを出来れば、医療費削減は何なくクリアー出来そうな事と思うのが疑問。
やはりどう考えても、医療や介護等に携わる巨大な利権構造とやらを駆逐して、どうしても再構築を行う必要性があるようです。

2016/12/21 23:10 違反報告

 高齢化や生活習慣病の増加に伴う医療費の高騰が問題です。特定健診やレセプトの情報を活用することで、保険事業をより費用対効果の高いものにしていこうとするのがデータヘルスの狙いです。

 健康を強制されているようで、個人的にはいい気はしません。

2016/12/21 17:14 違反報告
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